ふるさと納税で高級和牛が人気 コロナでだぶついた在庫もはけた 鮮やかなV字回復…裏には国の手厚い支援が

 2022/04/02 11:07
ふるさと納税の返礼品で届いた牛肉でしゃぶしゃぶを楽しむ武元さん一家=鹿児島市
ふるさと納税の返礼品で届いた牛肉でしゃぶしゃぶを楽しむ武元さん一家=鹿児島市
 3月6日夜、鹿児島市の武元美保子さん(57)宅はにぎやかだった。離れて暮らす娘2人がやって来て、家族水入らずでしゃぶしゃぶを囲んだ。

 用意された県産和牛の肩ローススライスは最上のA5等級とあって、サシ(脂肪交雑)がたっぷり入る。和牛特有の肉の甘みと香りに、次女の夏紀さん(27)は「やっぱりおいしい」と笑みがこぼれた。

 武元家ではここ5年、こうやって高級和牛を食べる機会が増えた。家族を笑顔にさせる肉はふるさと納税の返礼品だ。しゃぶしゃぶの肉は南さつま市から届いた。

 相応の寄付は必要だが、実質2000円の負担で手に入る。美保子さんは「スーパーで買うよりいい肉だし、お得」と言い、夏紀さんも「和牛は高くて自分で買うことはほとんどないからありがたい」と話す。

■巣ごもり需要

 高級肉の得意客だったインバウンド(訪日外国人客)がコロナ禍で姿を消し、需要の穴埋めに大きく貢献しているのが、このふるさと納税だ。

 武元家が重宝する鹿児島銀行系のサイト「ふるさと一番」は県内14自治体が参加し、和牛が人気の返礼品になっている。A5等級ロースすき焼き、黒毛和牛ヒレステーキ…。食欲をそそる写真と文句が並ぶ。2020年度は和牛を選ぶ人が4割近くを占め、コロナ前の1割強から大きく伸びた。

 商機を失っていた業界にとって、旺盛な巣ごもり消費が追い風となった返礼品需要はまさに救世主。食肉製造販売の県内大手で、取り扱う和牛の8割を4~5等級が占めるナンチク(曽於市)の大谷猛営業部長(57)は「おかげで在庫をかなり減らすことができた」と語る。

■からくり

 和牛相場も持ち直している。初の緊急事態宣言が全国に発令された20年4月、枝肉卸値は1キロ当たり2000円を切るまで急落。1年後にはコロナ前の水準である2600円台に回復し、今も維持する。

 V字回復にはからくりがある。国による手厚い業界支援だ。

 食肉会社に対し、積み上がった在庫の保管費補助にとどまらず、荷動きを活発にするため1キロ当たり千円(21年度からは850円)の販促奨励金を出し、さらに牛肉の仕入れ費用の半額を助成した。

 損切りの心配が消えたことで在庫がはけ、相場は回復。同時に、A5ステーキといった高級肉が割安で出回るようになり、ふるさと納税サイトの目玉として重宝されている。

 つまり堅調な相場も、返礼品需要も“官製”というわけだ。しかし、販促奨励金などの支援は来春に期限切れとなるため、業界は戦々恐々とする。

 「インバウンドが戻らず、外食産業の需要回復も鈍いままなら、恐らく相場は下落する」と大谷さん。輸出が順調とはいえ、コロナ禍がもたらした消費行動の変化に気をもむ。

(連載【翔べ和牛 第3部 A5神話】より)