「あく」の強さがおいしさの秘訣? 鹿児島の端午の節句 定番の餅菓子「あくまき」 もちもち食感、独特のえぐみ…先人の知恵 科学が裏打ち

 2022/05/03 15:00
一口大に切った4種類のあくまき=霧島市霧島田口
一口大に切った4種類のあくまき=霧島市霧島田口
 5月5日は端午の節句。定番のお菓子といえば、全国ではかしわ餅だが、鹿児島では「あくまき」だ。竹皮に餅状にみっちりと詰まり、もちもちの食感と独特のえぐみが特徴。原料のもち米はどんな過程を経て、長年県民に愛される味へ変化するのか。霧島市霧島田口の霧島食育研究会が4月24~29日に開いた「あくまき全部講座」を取材すると、さまざまな科学を利用し「あく」の力を最大限引き出した先人たちの知恵が見えてきた。

 あくまきは3月、地域に根付く食文化をPRする文化庁の「100年フード」に認定された。それを記念し、同研究会があくまき作りの全工程の講座を初開催、13人が参加した。

▼灰によって違う色に

 初日の24日は木灰からあくを取った。いずれも市販の「みかんの木灰」「かつお節用の木灰」「あくまき用の木灰」の3種類。

 同研究会の庭先の羽釜で湯を沸かし、未使用の麦袋とさらしで灰をこす。みかんの木灰からはみかんジュースのような明るいオレンジ色、かつお節用の木灰は濃褐色のあく。灰によって全く違う色になった。

 2日目の28日は、もち米をあくに、もち米を包む竹皮を水に浸す。あくは24日に木灰から取った3種類に、市販の出来合いのものを加えた4種類だ。

 最終日の29日、いよいよもち米をあくで煮る。
 もち米を竹皮に包み、細く裂いた竹皮できつめに結ぶ。4種類のあくごとに釜を分けて3時間半から4時間ゆでていく。

 まきを足したり引いたりして火を調整、あくまきを裏返し、できあがり具合をみる。全身に煙のにおいをたきしめながらの作業だ。火の番をしている参加者は「雨が降って涼しいからよかった」と笑っていた。

 もちもちの食感は、このとき作られる。もち米が膨張する力と、それを押さえる竹皮の力、それに加えてあくの持つ糊化(こか)促進作用による。特有のあめ色は、もち米の糖分がアミノカルボニル反応によって変色するため。あくはこの食感を長く保つ作用がある。

 また、長時間煮ることやアルカリ性のあくによる細菌増殖を抑制する効果、木灰と竹皮の抗菌作用が複合的に重なり保存性が増す。

▼保存食

 「それでは様子を見てみましょう」。もうもうと上がる湯気の中、講師で同研究会理事長の千葉しのぶさん(58)が釜ふたの上にパンパンに膨らんだあくまきを載せた。竹皮を開くと、「わあ」と歓声が上がった。あくの違いで色が異なり、褐色の3種類と比べ、みかんの木灰のものは色が薄く、米粒が少し残っていた。

 出来立ては硫黄臭がきつく、1~2日後が味が落ち着きおいしいという。それでも一切れずつ試食した参加者は「おいしい」「味が違う」と喜んだ。出来合いのあくで作ったものはよく伸びる餅状に、あくまき用とかつお節用の木灰は硬めのゼリー状に仕上がった。みかんの木灰はえぐみや硫黄臭が少なめ。「出来立てでも食べやすい」と話す参加者が多かった。

 小学生の息子と参加した鹿児島市下荒田1丁目、グラフィックデザイナーの坂口理恵さん(45)は「あくの違いで色や味が変わるのが興味深かった」。千葉さんは「あくまきは調理科学の上でも実に合理的な保存食。今後もすばらしさを伝えていきたい」と話した。

■霧島食育研究会・千葉しのぶ理事長
「兵糧が始まり、との説も」

 地域ごとに味の違いがあるところがあくまきの魅力。かつお節を作る地域ならかつお節用の木灰、竹が多い地域なら竹灰、みかんやぶどうを栽培する地域ならみかんやぶどうの木灰などと地域ごとに使う灰が異なり、もち米の包み方などにも違いがある。

 鹿児島と宮崎や熊本の霧島山麓地域以外にも、新潟県や山形県にあくに浸すもち米の調理法がある。おにぎりは3日で傷むが、あくまきなら1週間もつ。主に稲作が盛んではない地域で、貴重な米を長くおいしく味わうために定着したものだと考えられる。

 原型は台湾と見られるが、なぜ作り始めたのかなど正確な歴史は判明しておらず、その点も興味深い。薩摩藩が1592年の朝鮮出兵か、1600年の関ケ原の戦いの際、日持ちする兵糧として作ったのが始まりとする説もある。