脱炭素社会へ、洋上風力発電は再生可能エネルギーの切り札になるか? 自治体の対応は積極派と慎重派で割れる 事業化への道見えず

 2022/05/19 15:00
洋上風力発電の事業計画が持ち上がる薩摩半島西岸=いちき串木野市の旧串木野港灯台前
洋上風力発電の事業計画が持ち上がる薩摩半島西岸=いちき串木野市の旧串木野港灯台前
 鹿児島県は、薩摩半島沖で取りざたされている三つの洋上風力発電計画を巡り、事業化に必要な手続きの第一歩となる「国への情報提供」を本年度も見送った。積極姿勢のいちき串木野をはじめ3市が事業化手続きに前向きな一方、日置、南さつま両市は慎重姿勢。沿岸5市の対応が割れている。共通するのは「判断材料不足」。計画する事業者や国、県に詳細な情報発信を求めている。

 同海域では、阿久根-いちき串木野の沖合で、南国殖産(鹿児島市)と三井不動産(東京)がそれぞれ外資系企業と手を組んで構想。いちき串木野-南さつまの吹上浜沖ではインフラックス(同)が計画する。

 2050年の脱炭素社会の実現に向け、再生可能エネルギーの主力電源化を目指す国は、洋上風力を後押しする「再エネ海域利用法」を19年に施行。海域の長期占用を認める「促進区域」の指定に向け、自然条件や漁業者、船舶事業者などの利害関係者に関する情報提供を都道府県から年に1回募集している。

 国内では全国に先駆けて長崎沖や秋田沖などが促進区域に指定され、事業者が選定された。本年度の国への情報提供締め切りは4月28日だったが、鹿児島県は「地元の利害関係者の理解が進んでいない」として情報提供を見送った。

 洋上風力推進を唯一表明するいちき串木野市は今年、地元漁協や住民代表らでつくる独自の研究会を立ち上げた。コンサルタント会社の調査をもとに経済と環境両面の利点・欠点を話し合う予定で、3月末の初会合には反対派の利害関係者も出席した。

 4月初旬には、いちき串木野、阿久根両市の建設事業者らが県庁で塩田康一知事と面会。「整備に伴う維持管理で収益を得られる」として、「国への情報提供」を求める要望書を提出した。だが、県は4月末、本年度分の「情報提供」を見送った。面会に同席した中屋謙治市長は「期待していたのに残念。今後も市民に賛否の判断材料を提供できるよう情報を集める」と語る。

 阿久根市の担当者は、県の聞き取りに「情報提供」に同意したとする一方、「地元漁協の中で制度や事業内容の理解が進んでいない」と説明。「法定協議会で国や県から詳細な説明がされ、意見を広く拾い上げるならという趣旨で手を挙げた」と強調する。薩摩川内市も「情報提供」を希望したが、市幹部は「判断材料が少ない。国、県、事業者が十分に説明するよう条件を付けた」と明かす。

 洋上風力は再エネの「切り札」として期待される。一方で、大規模な洋上風力発電は国内で実例がなく、周辺の自然環境や漁業への影響を懸念する声もある。

 日置、南さつま両市は、「情報提供」を希望しなかった。いずれも「事業に関する情報が不足し、住民の賛否も分かれている。判断できる状況にない」との理由からだ。日置市では3月までに、吹上浜沖の計画に賛成・反対の双方の要望書や陳情書が出された。健康被害などを訴える反対住民の署名活動も行われている。

 全国に先駆けて促進区域に指定された秋田県は「再エネ海域利用法」施行前から、沿岸自治体や漁業者らで検討委員会を設置して協議したため、情報提供までスムーズに進んだという。

 薩摩半島西方沖で計画をする事業者からは「鹿児島県の洋上風力に対する姿勢が見えない」と不満も聞かれる。ある関係者は「事業者に住民説明会を求めるだけでなく、県も情報発信に力を入れてほしい」と話す。

 県は、洋上風力への理解を深めるため、20年度から沿岸自治体の担当者を招き、国の職員から再エネ海域利用法の説明を受ける勉強会を開く。現時点で秋田のように検討委を設置する予定などはなく、「先行地域の合意形成について情報収集していく」としている。

 ■洋上風力発電の事業化

 国が候補海域を「促進区域」に指定することが必要となる。国が都道府県から利害関係者の意向や調整状況、候補海域の海象といった情報提供を受け、「有望な区域」に指定すると、国や地方自治体、利害関係者で構成する法定協議会が設置される。法定協で促進区域が合意されれば、第三者委員会の開催などを経て区域指定される。その後、国が事業者を公募で選び、最長30年間海域の占用を許可する。