100万円のクロマグロを海に捨てるなんて…漁獲量上限で定置網漁停止 嘆く鹿児島の漁師「もう網に入ってくれるな」

 2022/06/22 11:05
網にかかり海に戻されるクロマグロ=17日、南さつま市の秋目湾沖(提供)
網にかかり海に戻されるクロマグロ=17日、南さつま市の秋目湾沖(提供)
 資源管理のため国際規則で漁獲量が制限されている太平洋大型クロマグロ(30キロ以上)について、鹿児島県は県内での定置網漁を22日から年度末まで停止するよう命令した。網にかかっても放流しなければならないが、生きたまま逃がすのは難しい。漁師からは「現実的でない」「本当の意味での資源保護を考えるべき」との声が上がっている。

 21日の明け方、大粒の雨が降りしきる南さつま市坊津の秋目漁港に、一隻の定置網漁船が入港した。ハガツオやイサキ、シイラなどの魚が次々と水揚げされ、箱詰めされていく。30分もたたずにトラックに積まれ、市場へと運ばれた。

 「マグロがいなくてホッとしたが、そう思わないといけないのが悔しい」。定置網漁師(66)は肩を落とし、つぶやいた。

 実は4日前、100キロに迫る大物が8匹網にかかったばかり。だが、すでに鹿児島県内での漁獲量は上限に達しており、県から放流の要請が出ていた。泣く泣く全て海に戻したという。

 コロナ禍での外食需要減少による魚価の下落や、燃油価格の上昇で経営環境は厳しい。そんな中、出荷すれば100万円を超える収入にもなるクロマグロをみすみす手放さねばならない状況に「あんまりだ。漁師を続けられなくなる」と憤る。

 最近では漁に出るたび、こう願う。「もう、がっかりしたくない。マグロは入ってくれるな」

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 太平洋クロマグロ漁は、資源保護のために都道府県ごとに漁獲枠が決められている。鹿児島県では定置網漁、その他の漁船漁業ともに上限に達し、今年度中の大型マグロの採捕について県が停止命令を出した。

 鹿児島大学水産学部の大富潤教授(59)は「マグロの保護はもちろん必要だが、漁業者の精神的な足かせになっては本末転倒だ」と危惧する。

 漁師の数が急速に減る中、水産資源と同時に「漁業者の保護」も必要になる。水産業が衰退すれば、国内のタンパク源の確保にも影響が及ぶ。

 「締め付けるばかりではいけない。漁師のモチベーションが上がるような取り組みが漁業の活性化につながる」と指摘する。

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 定置網は「待って捕る」漁法。特定の魚種を狙うことはできない。網を上げた時点でほとんどのマグロは死んでしまうため、生きたまま放流するには他の魚も一緒に逃がすことになり、現実的ではない。

 同市笠沙で定置網漁や水産物卸を営む男性(38)は「捨てているようなもの。むしろ資源を無駄にしているのではないか」と、現場と制度の矛盾を指摘する。

 漁獲枠の都道府県への割り当ては、年度ごとに過去の水揚げ実績などに基づいて決まる。だが近年は、海水温の上昇など海の環境がめまぐるしく変化し、マグロが捕れる時期や場所は年によって変わる。月単位などより細かい期間で区切って、漁獲状況に応じて各都道府県同士が枠を融通し合うといった、柔軟な運用を提案する。

 「矛盾のない、みんなが納得できる制度に見直す。それが水産資源の持続的な利用につながるはずだ」。水産業の未来を見据え、男性はそう語った。