牛の世話もスマホで 旅先や病室から遠隔操作 自動給餌機、カメラ…放牧と先端技術融合 「365日休みない」畜産農家の担い手確保に期待高まる
2022/06/25 11:00

スマートフォンを使って給餌機を操作する増田好人さん=佐賀県鹿島市
「給餌も遠隔でできるよ」。そう言って増田さんがスマートフォンを操作すると、斜面の下に設置された自動給餌機が作動し、餌槽に飼料が落ち始めた。
連動して流れる音楽に反応し、牧場内の牛たちが、斜面を下りて集まってくる。牛が餌槽に取り付けられた係留器具に首を通すと、餌を食べ切るまで自動で首が固定される。
「労力が最低限に抑えられ、他の仕事と並行できる」。増田さんは近くにある道の駅の運営やミカン栽培なども手掛ける。牛の世話はその合間にこなす。
■担い手確保
スマートフォンの専用アプリを使えば、牧場内に設置された4台のカメラ映像を通して、いつでも牧場内を確認することが可能だ。増田さんは「旅行先の乗鞍岳から給餌機のスイッチを押したこともある」と笑う。
体重や給餌量など牛の体調に関するデータも、カメラを通して取得できるという。
「365日休みがない」。これは多くの畜産農家に共通する悩みだ。後継者確保の壁にもなっている。
増田さんは4月に骨折して3週間の入院を強いられたが、病室から牛の観察や餌やりができた。映像やデータから体調に異変がある牛を見つけ、研究会のメンバーらに指示を出したこともある。「どこにいても、ネット環境があれば世話ができる。担い手の確保にもつながるのではないか」と期待する。
■裾野拡大
鹿児島大学農学部の後藤貴文教授(57)=食肉科学=は増田さんと協力して放牧に取り組む。鹿島市から鳥獣被害対策の相談を受けたのがきっかけだった。耕作放棄地が荒れ果て、イノシシなどのすみかになってしまう。各地の農村で見られることだ。
「牛は土地をきれいにしてくれる。うまくやれば収入も期待できる」。人間が消化・吸収できない草を食べ、タンパク源を生み出す。国土保全や食料自給率の向上にも一役買う可能性を秘める。
ただ、鹿島市の牧場で育てた子牛は小さく、競りでは当初20万円以下だった。後藤教授は「放置しすぎると家畜としての商品性が下がってしまう」として、適度な管理の必要性も唱える。
発育を良くするために配合飼料の量を調整し、今年4月の競りでは約47万円まで上がった。
肥育では、穀物を減らして牧草を主体にしても、ある程度のサシ(脂肪交雑)は入るという。こんな牛は黒毛和牛だけだ。これまで築き上げた育種と新たな技術の融合と言える。
「労力やコストを最小限に抑えた耕作放棄地での放牧。これが確立できれば和牛生産の裾野が広がる」。後藤教授はこう語る。
(連載【翔べ和牛 最終部 持続への挑戦】より)
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