「もっと早く入院できていれば…」 新型コロナに感染、施設内療養中に父を亡くした家族が抱く行政への不信感 命を守る医療とは【参院選 論点を問う】

 2022/06/28 08:33
公立種子島病院のコロナ病棟。今年1月から10床を確保している=16日、南種子町
公立種子島病院のコロナ病棟。今年1月から10床を確保している=16日、南種子町
 鹿児島市の男性(53)は行政への不信感が拭えずにいる。「待機の指示で社会的に必要な医療を受ける権利が奪われた」。今年3月、新型コロナウイルスに感染した85歳の父親を肺炎で亡くした。

 父親は入所中の高齢者施設で感染し、入院まで1週間を要した。調整がついたのは往診した医師に肺炎の可能性を指摘された後。「悪化してから搬送しても意味がない」

 年明け以降の「第6波」は、感染力が強い変異株の流行で、高齢者施設のクラスター(感染者集団)が相次いだ。国は「高齢者は原則入院」の方針を維持しつつ、病床逼迫(ひっぱく)時に施設内入所を継続する「施設内療養」を進めた。

 父親の感染判明時、県内の最大確保病床(564床)の使用率は4割台から増加傾向にあった。数字上は余裕があるように映るが、病院関係者の一人は「院内やスタッフの感染もあり、全てが常時使えるわけではない」とする。

 過去の流行では、病院がコロナ病床と申告しながら実際には稼働していない「幽霊病床」の存在も問題になった。国は今月、病床確保に実効性を持たせるため、都道府県が医療機関と事前に協定を結ぶ仕組みを創設するとした。

 種子島南部の公立種子島病院(南種子町、病床数62)は、今年1月からコロナ病床を8床増やし、計10床を確保した。第2種感染症指定医療機関で、もともと感染症病床が2床あったが、4人床の2部屋に陰圧化の工事を施した。

 同町では2~3月にクラスターが続発。1カ月当たりで15人前後を受け入れ、10床のうち最大8床が埋まった。德永正朝院長(58)は「ベッドが足りず、患者を鹿児島市に搬送しなければならない事態は避けられた」と語る。

 一方、感染対策で一般診療の入院を一部制限。ワクチン接種や発熱外来、濃厚接触者の検査も担い、ぎりぎりの人員での対応が続く。「そろそろ感染症分類の変更を検討すべきだ」。感染症法上の位置付けを季節性インフルエンザと同じ分類に引き下げるべきかの議論に関心を寄せる。

 離島医療を支える同病院は2019年9月、再編統合の検討が必要な公立・公的病院として名前が挙がった。県内は8病院。団塊世代が75歳以上になる25年に向け、病床の数や機能を見直す地域医療構想の一環で国が公表した。

 医療機関の病床機能報告によると、コロナ禍前の19年度と比較し、21年度の県内の病床数は約1200床減少した。国は少子高齢化に伴い、質の高い医療を効率的に提供するため、構想を着実に進める姿勢を崩していない。

 コロナ患者の受け入れでは、公立・公的病院が大きな役割を果たした側面がある。鹿児島大学の伊藤周平教授(社会保障法)は「医療は公共財。病床不足で医療が受けられない人が出ないよう、公的責任に基づく医療提供体制の再構築が必要」と指摘する。

 限られた医療資源で次の変異株や新興感染症にどう対応するのか。父親を亡くした男性は「命を守る医療であってほしい」と述べ、参院選での議論の深まりに期待を寄せる。