北朝鮮拉致 鹿児島・吹上浜事件から44年 動かぬ政治、進む高齢化、焦る家族「被害者と家族の対面なければ、事件は終わらない」

 2022/08/12 14:58
【左】「多くの人の応援が本当にうれしい」と話す市川健一さん=鹿屋市輝北【右】「政治に拉致解決の気概が感じられない」と話す増元照明さん=東京都内
【左】「多くの人の応援が本当にうれしい」と話す市川健一さん=鹿屋市輝北【右】「政治に拉致解決の気概が感じられない」と話す増元照明さん=東京都内
 1978(昭和53)年に市川修一さん=当時(23)=と増元るみ子さん=同(24)=が鹿児島県日置市吹上浜で北朝鮮に拉致された事件の発生から12日で44年となった。今年は被害者5人の帰国から20年、家族会結成から25年の節目だが、解決の糸口は見えず、北朝鮮は「拉致問題は解決済み」との姿勢を崩さない。市川さんの兄・健一さん(77)=鹿屋市輝北=と、増元さんの弟・照明さん(66)=東京都中央区=に、10日に発足した第2次岸田改造内閣への要望や今の思いを聞いた。

■市川健一さん(77)=鹿児島県鹿屋市輝北

 -内閣改造があった。

 「松野博一官房長官兼拉致問題担当相が留任してくれてよかった。数回会い、いつも一生懸命に取り組んでいると感じている。岸田政権も拉致問題は最重要課題に挙げており、何とか前向きな交渉を実現できるようにしてほしい」

 -家族会前代表の飯塚繁雄さんが昨年他界した。

 「家族の高齢化がどんどん進み、政府が認定する被害者の親で存命なのは横田早紀江さんと有本明弘さんの2人だけになった。被害者と家族の対面がないと事件は終わらない。2人には何とか会わせてあげたい」

 「特定失踪者は何百人もいる。生きているか死んでいるかも分からない。家族は目の前にいないことにいつまでも苦しめられている。国民の皆さんは自分に当てはめて想像してほしい」

 -ロシアのウクライナ侵攻や中国と台湾の軍事的緊張など、国際情勢は不安定化している。

 「国会議員が拉致事件に一生懸命に取り組む姿はあまり見えない。拉致は人権問題で、人の命には限りがある。複雑な国際政治に巻き込まれて解決への努力がおろそかになっているのではないか」

 「元工作員の話を聞くと、北朝鮮は普通の外交には応じない。2002年に日朝首脳会談が実現したのは米国の強い北朝鮮非難があったからだ。18~19年の米朝首脳会談の前にも米国の軍事圧力があった。北朝鮮は米国ばかりを見ている。米国との協力が必要だ」

 -金正恩総書記に伝えたいことは。

 「経済状況が大変な北朝鮮の未来のためにも被害者全員を日本に返してほしい。そうすれば、日本が北朝鮮を経済支援し、国交正常化することに私たち家族は反対しない。一括帰国の決断をしてほしい」

 「北朝鮮はトップが全てを決める国で、首脳会談が不可欠。20年前に5人が帰ってきた時は全員が帰ってくるのではと希望を持ったが、誰一人帰ってこない。焦りがある。政府には一日も早い日朝首脳会談実現に力を尽くしてほしい。とにかく早く弟に会いたい。『兄ちゃん』と呼ぶ声を聞きたい」

■増元照明さん(66)=東京都中央区

 -家族会結成から25年が過ぎた。

 「2002年に被害者5人が帰国して以降、進展はなく、親世代は次々と亡くなり、きょうだいの高齢化も進んでいる。もう時間がない。被害者横田めぐみさんの母早紀江さんと先日話したが、『この国はどうなっているのか』と憤っていた。まったく同じ気持ちだ。北朝鮮は対米外交を有利に進めるため、拉致事件の風化を待っている。許すわけにはいかない」

 -岸田首相を含めて歴代政権は拉致事件を最重要課題に位置付けている。

 「新型コロナがまん延して既に2年以上が過ぎた。北朝鮮は衛生環境や医療態勢が整っておらず、食糧事情も悪い。被害者の救出が一刻も早くなされるべきだが、焦っているのは家族だけだ。政府から解決への気概や積極性は感じられない」

 -安倍元首相が亡くなった。

 「拉致事件が疑惑として取り扱われていた当初から熱心に取り組んでくれた。活動の支柱を失った感じだ。通夜には家族会の一員として参列させてもらったが、安倍さんが納まったひつぎは青に見えた。心血を注いだ拉致問題を象徴する「ブルーリボン」の色だ。偶然かもしれないが、最期まで家族を励ましてくれているようでありがたかった」

 -与党が勝利した今夏の参院選をどうみるか。

 「今回もそうだが、この20年間、選挙戦を通した議論が与野党間で深まっているとは言いがたい。拉致事件をあまり知らない若手の議員が増えているとも感じる。認定被害者が2人いる鹿児島選出の議員には、ぜひ議論をリードして世論を喚起してほしい」

 -国民に訴えたいことは。

 「拉致は政治・外交問題と捉えられがちだが、不法に異国に連れ去られ、今も不当に拘束されているという刑事事件だ。街頭での署名活動でも常々『問題』とは言わず、『事件』は終わっていないと訴えている。家族を奪われて取り戻せない憤りや、積極的に動こうとしない国の在り方が正しいのか。特に若い人に考えてもらいたい」