9000円を期待したら500円…政府肝いりの保育士処遇改善対策 現場の実態に合わず

 2022/10/15 11:00
処遇改善補助の9000円が支給されている県内の保育関係者の給与明細(画像は一部加工してあります)
処遇改善補助の9000円が支給されている県内の保育関係者の給与明細(画像は一部加工してあります)
 政府は今年2月から9月まで、保育士らの賃金を上げる経済対策を実施した。目安として示されたのは「収入の3%程度、月9000円相当」。ところが、鹿児島県内の30代保育士から「9000円もらえなかった。検証して」との声が「こちら373」に寄せられた。取材すると、確かに9000円に届かなかった人がいた。実態に合わない国の配置基準など現場の課題が見えてきた。

 エッセンシャルワーカーの処遇改善が目的で、補助金約2600億円を充てた。保育士や幼稚園教諭は「収入の3%(9000円)」の引き上げ。ただし、施設の子どもの数に対して必要な保育士の人数を定めた国の配置基準が補助額算定のベースになり、実際の支給は施設判断に委ねられた。

 「9000円が一人歩きしてしまった」と言うのは鹿児島市のある保育所園長。この保育所は配置基準より2人多い9人の保育士に加え、育児支援員も2人置く。「国の基準ではとても手が足りない」(園長)からだ。全職員で平等に分配し、賃上げ額は1人約8000円になった。

 手厚い保育をするため基準以上の職員を置く施設は多い。この園長は「職員を多く集めると厳しくなる現状はおかしい」と指摘する。賃上げのため工面したり、費用の一部を負担した施設もあるという。

 処遇改善は非正規職員も対象。薩摩川内市の保育所は非正規保育士の勤務時間などを考慮し、平均5000円を支給した。「地方は非正規で働く人が多く、待遇も厳しい。それだけに励みになれば」と園長。

 しかし、県内でパートで働く30代非正規保育士の賃上げは月500円だった。「ショックを受けた。資格を持ち、正職員と同様にバリバリ働いているのに」。

 また、公立の施設は賃上げ対象にならない場合があった。公務員の給与は人事院勧告に基づく条例で定められており、「他の職種との整合性がとれない」と市町村が補助申請を見送ったからだ。鹿児島市や霧島市は、会計年度任用職員(非正規)だけを賃上げした。

 公立に限らず、補助申請を見送った施設もあった。県子育て支援課によると、県内1368施設のうち約8割の1044施設が申請を行った。約2割は未申請となり、理由は不明。「賃上げの機会なのに」と首をかしげる関係者もいた。

 全国の保育士の平均年収は約382万円。全産業平均より100万円ほど低い。鹿児島県の保育士は約349万円でこの7年間で約80万円上昇したものの、まだ差がある。低賃金は保育士不足の一因になっている。鹿児島市の50代保育士は「新型コロナで業務はより煩雑になり、使命感で乗り切っている。保育士の専門性にもっと目を向けてほしい」と訴える。

 10月以降、政府は3%程度(9000円)の賃上げ効果を持続するため、保育所の運営費にあたる公定価格を引き上げる方向だ。県保育連合会の下園和靖会長は「公定価格が継続的に上がれば抜本的な処遇改善につながる」と期待する。保育士らが安心して長く働ける環境整備は急務だ。

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