社会保険の加入対象拡大 「手取り減る」「物価高の中つらい」パート主婦らため息 企業も負担増に悩み、人手不足の恐れも

 2022/11/10 11:00
中小企業が多い鹿児島では多くの女性がパートで働いている=鹿児島市
中小企業が多い鹿児島では多くの女性がパートで働いている=鹿児島市
 10月から従業員101人以上の企業・事業所で働くパートやアルバイトの人たちは、厚生年金など社会保険の加入対象となった。老後の年金が増えるなどメリットはあるが、保険料を払うため手取り額が減る人もおり、鹿児島県内のパート主婦からは「物価高の中つらい」とため息がもれる。今を優先すべきか、将来に備えるべきか、悩ましい。

 鹿児島市の建設会社に勤めるパート主婦(55)は夫の扶養に入り、国民年金の第3号被保険者で社会保険料の負担はなかった。新たに負担する社会保険料を見積もると、手取りは年20万円近く減る。女性は保険料を負担せずにすむよう、月約80時間だった勤務時間を減らした。「本音はもっと働きたい。鹿児島は時給が低く、保険料分を稼ぐのは大変。国は地方の実情を見ていない」と嘆く。

 官公庁で働くパート主婦(54)=同市=は先月から夫の扶養を外れ、保険料を負担する。勤務条件の変更はできず、「制度変更だから仕方ない。今から保険料を払っても年金が大きく増えるわけではないが」。

 社会保険の適用拡大はパートなど非正規労働者の厚生年金などの加入を広げ、保障の仕組みを整える狙い。要件は(1)労働時間週20時間以上(2)月額8.8万円以上(年収約106万円以上)(3)2カ月以上の雇用(4)学生ではない-の四つ。

 厚生年金に加入すれば年金は増え、健康保険加入で傷病手当金や出産手当金も支給される。2016年に501人以上の企業から段階的に始まり、2年後は51人以上の企業に広がる。

 これまで夫が会社員や公務員の場合、パートの年収が130万円未満なら、自己負担なしで健康保険に加入でき、国民年金の第3号被保険者として老齢基礎年金が受け取れた。

 今回の変更で130万円を軸に働いていたパート主婦は、年収を106万円未満に抑えるケースも。保険料分を上回るまで働く選択はあるものの、育児や介護を抱えて勤務時間を増やすことは厳しい。

 一方、新たに保険料の半分を負担する企業・事業所への影響も大きく、頭を悩ます経営者は少なくない。さらに「106万円の壁」で、働く時間を調整されると人手不足につながる恐れもある。

 鹿児島市の建設関係の会社は1割がパート従業員。うち主婦の場合、保険料を負担して夫の扶養を外れる人と、扶養内の106万円未満で働く人、半々に分かれた。同社総務課は「それぞれの事情。ただ、人手が足りなくなる部分をどう埋めるか課題」と悩む。

 鹿児島は中小企業が多く、大勢のパート主婦が働いている。「社会保険の全員加入の目的はすばらしいが、実際は働きにくくしていないだろうか」。疑問の声が企業からも上がる。