もし外国の攻撃が発生したら…「住民にまで手が回るのか、正直答えられない」 陸自隊員は険しい表情で語った

 2022/12/01 07:06
訓練で負傷者救護にあたる米軍と陸上自衛隊の隊員=11月16日、奄美市名瀬の奄美駐屯地
訓練で負傷者救護にあたる米軍と陸上自衛隊の隊員=11月16日、奄美市名瀬の奄美駐屯地
 迷彩服の負傷者役が続々と運ばれ、受け入れ所の自衛隊員が切迫した様子で声を上げた。症状は同時通訳で米軍の衛生兵にも伝えられ、医官らが慌ただしく処置した。

 11月16日、陸自奄美駐屯地(鹿児島県奄美市)などであった日米共同統合演習の一幕だ。オーストラリアやカナダ、イギリスも参加した訓練ではミサイル展開に加え、医療態勢を重視。米軍機オスプレイで沖縄に輸送するなど離島間の連携も確認した。

 有事の具体的な課題を洗い出し、防衛省は「対処・抑止力が強化された」と総括した。だが、そこに住民の姿はない。

 「実際に演習のような状態になる時は既に異常事態だ。外国の攻撃に対処しながら住民にまで手が回るのか、正直答えられない」。ある陸自隊員は険しい表情で語った。

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 2004年に定められた国民保護法は、外国の攻撃から住民を守る措置義務を国と自治体に課した。

 演習でも想定する基地への攻撃などが発生した場合、国が警報を発令。都道府県から連絡を受けた市町村が住民を避難させる。自治体は消防庁モデルを基に、避難や備蓄といった国民保護計画を策定している。

 ただ、実態は懸け離れている。砲撃から身を守るために指定された地下施設は県内で鹿児島市内の1カ所だけ。実際に住民を動かす市町村に行動指針が作られていないところも多い。

 「米軍がいることで鹿屋が攻撃対象になるリスクが高まる」。海自鹿屋航空基地(鹿屋市)への米軍無人機MQ9一時配備が表面化して以降、専門家や市民の懸念は根強い。

 市の担当者は「具体的に起こる事態も、適切な避難方法も想定が難しい」と戸惑う。

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 塩田康一知事は国民保護計画について、有事を念頭に「まだまだ実効性を高める余地がある」との認識を示す。一方、法制度自体の欠陥を指摘する意見もある。

 琉球大の山本章子准教授(国際政治史)は「避難は時間がかかり、警報発令の段階では遅い。自治体は敵の居場所や攻撃時間の情報を与えられないまま、独自判断で誘導しなければならなくなる」と警告する。

 有事では、原子力発電所など重要施設へのサイバー攻撃、通信の遮断なども考えられる。大規模演習や装備の獲得といった軍事的な動きの陰で、暮らしの中の安全を保障する議論は遅々として進まない。「政府は国民の命を軽視している」。山本准教授は批判した。

(連載「安保激変@鹿屋 米軍がやってきた」より)

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