飲酒運転の車に姉夫婦の命は奪われた 「同じ思いはさせたくない」 居酒屋を営む私は、酒を出す前に客の鍵を預かるようになった

 2022/12/06 20:50
「犯罪被害者だからこそ伝えられることがある」と話す山下良一さん
「犯罪被害者だからこそ伝えられることがある」と話す山下良一さん
 「姉たちが大変な交通事故に遭った」。親族からの電話が悪夢の始まりだった。1998年6月3日午前0時ごろのことだ。

 居酒屋の仕事を終えていた山下良一さん(70)=鹿児島市=は母と一緒に病院に駆けつけた。義兄は間もなく亡くなった。姉も意識が戻らぬまま1週間後に息を引き取った。母は「代わることができるのなら、私が代わってあげたい」と泣き崩れ、食事も喉を通らなくなった。

 1週間で2回の葬式。血痕の残る車両の確認にも立ち会った。その光景は24年過ぎた今も脳裏に焼き付いている。

 交差点で車同士が衝突し、相手は赤信号を無視した飲酒運転。一緒に酒を飲んだ会社の上司を送った帰りだったことが裁判で分かった。法廷での反省の言葉とは裏腹に、本人や会社から、きちんとした謝罪はなかった。

 やり場のない怒りをどこにぶつけたらいいのか。消化しきれない思いを抱え続けた末、飲酒運転をなくす活動に行き着いた。「同じ思いをする人をこれ以上出したくない」からだ。

 居酒屋に車で来た客には、酒を出す前に鍵を預かり、会計前には代行運転を呼ぶか、車を置いて帰るかを確認。ごまかして車に乗ろうとする客を通報したことも一度ではない。「鍵を預かることが抑止力となり、命を救うことにつながったのであればうれしい。姉が与えた使命と思って続けた」と振り返る。

 65歳を機に店は畳んだが、2013年から保護司を続ける。「犯罪被害者だからこそ、伝えられることがある。加害者は刑期を終えればリセットと思うかもしれないが、被害者の悲しみや苦しみは一生続く。その思いを背負って更生してほしい」と訴える。

 姉夫婦が生きていれば70代半ば。「居酒屋経営などいつも助言してくれ、頼もしかった。2人だったら、どんな老後を過ごしただろう。子どもの成長も見届けたかっただろうに」。当時の事故を振り返ると今も涙があふれる。

 日々の生活で車は欠かせない。酒も身近な存在だ。だが、両方が重なると一瞬にして車は「凶器」に変わる。鹿児島県警によると、2021年に県内で発生した飲酒運転事故は46件。5人が犠牲になった。

 山下さんは言う。「もし家族など身近な人が被害に遭うと思えばハンドルは握れないはず。悲しい事故を人ごとと思わず、自分のこととして考えることが飲酒運転撲滅の近道になる」



 事件・事故の被害者、遺族は、時間が過ぎても悲しみや怒りを振り払うことはできない。その思いを伝え、犯罪抑止や被害者支援の在り方を考えたい。

(連載「消えぬ悲しみ 被害者の思い」より)

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