「妻は事件に殺された」 ナイフを持った男がいきなり車内へ…心を病み、40代で急死 家族の人生も一変した

 2022/12/07 20:48
妻だけでなく、家族も苦しんだ経験を高校生に語る今村公洋さん
妻だけでなく、家族も苦しんだ経験を高校生に語る今村公洋さん
 2006年7月の強盗致傷事件を境に、今村公洋さん(58)=鹿児島県霧島市=一家の生活は一変した。被害に遭った妻は心に深い傷を抱えたまま3年後に急死した。

 スーパーで買い物を終えた妻が運転席に戻ると後部座席にナイフを持った男が乗り込んできた。必死に抵抗して大きなけがはなかったものの、男がナイフで手を切り、大量の返り血を浴びた。奪われたのは財布と携帯電話。今村さんは「大したことない事件と思うかもしれないが、とんでもない」と言う。

 男はすぐに自首し、妻はその日の深夜まで警察に事情を聴かれた。翌日は現場で立ち会いが続いた。警察にとっては必要な捜査でも、血が残るシートの確認など、妻にとっては恐怖や不安の「刷り込み」に他ならなかった。

 帰宅した妻は泣き崩れた。事件のフラッシュバックにさいなまれ、体調を崩していく。職場や親しい人たちが悪気なく聞く「何があったの」という一言も負担になった。「思い出したくない」「聞かれたくない」-。心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ病に苦しんだ。

 仕事も辞めざるを得なくなり、家に引きこもった。加害者が男だったことから、男性不信に陥った。今村さんが家事全般をこなして支えたが「私の気持ちは分からない。1人になりたい」とふさぎ込んだ。カウンセリングや入院治療も受けたものの、09年7月、脳内出血で40代の若さで急死。「事件に殺された」。今村さんは言い切る。

 刑に服すとはいえ、服役中の加害者の生活は全て税金で賄われる。被害者の治療費は原則自己負担という矛盾。自治体による見舞金制度は増えているものの、今年4月時点で13都県にとどまり、鹿児島県は導入していない。模範囚だった加害者の仮釈放申請について意見を求められたときは「なぜ、許せない」と悲しみと怒りがこみ上げた。

 妻の体調悪化で子どもは非行に走ったり、不登校になったりもした。「そんなことだとお母さんが悲しむぞ」。何げない教師の言葉にショックを受け「今でも心に引っかかっている」という。

 被害者だけでなく、家族までもが苦しむ現実を知ってもらおうと、事件当時から相談していた「かごしま犯罪被害者支援センター」などを通じ「命の大切さを学ぶ教室」で子どもたちに、妻や家族が味わった体験を語っている。「同じような苦しみを抱える人の役に立ちたい」と話していた妻の思いが駆り立てている。

 今村さんは「相手の苦しみを想像することで周囲の声のかけ方は変わってくる。心の痛みに思いを巡らすことは、犯罪を踏みとどめる力にもなる」と訴える。



 事件・事故の被害者、遺族は、時間が過ぎても悲しみや怒りを振り払うことはできない。その思いを伝え、犯罪抑止や被害者支援の在り方を考えたい。

(連載「消えぬ悲しみ 被害者の思い」より)

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