日給9万円。「漁一本に比べれば安定感が…」と漁師は言う。基地建設作業員を乗せ馬毛島を目指す「海上タクシー」。港の朝の日常になった
2023/01/16 11:00

作業員を乗せ、馬毛島(奥)へ向かう漁船=12日午前7時50分、西之表市の西之表港
空が白み始めた12日午前7時半、種子島の玄関口、西之表港にエンジンの重低音が響いた。ヘルメットをかぶり、救命胴衣を着けた作業員が岸壁に横付けされた漁船に乗り込んでいく。1隻に7、8人ずつ。15分後、約12キロ先の馬毛島を目指し、4隻が港をたった。
この港で日常となった朝の光景だ。防衛省は1年前から本体工事に先行し、管理用道路の整備の名目で島内作業を本格化。作業員の送迎や周辺海域の警戒に多くの漁船が動員されるようになった。手配する種子島漁協によると、おおむね1日10~15隻が順番で担う。
日給は約9万円。一部は漁協への手数料や補助員の手当に回るが、手取りは悪くない。「漁一本に比べれば安定感が違う」と話す漁師は少なくない。送迎には「海上タクシー」にする届け出が必要で、現在では60隻を超える。昨年、一気に増えたという。
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4日にあった漁協の初競り。威勢のいい三本締めで始まったものの、15分足らずで終わった。年末年始がしけ続きだったとはいえ、関係者から「少ないな」とぼやきが漏れた。
近年、種子島近海の地魚は市内にあまり出回らない。「温暖化で魚が捕れないとも聞くが、送迎や警戒の仕事でそもそも漁に出ていない。悪循環だ」と仲買人の丸山一徳さん(63)。死活問題でもあり、鮮魚商組合は昨夏、出漁を増やすよう漁協に求めた。
市は本年度から競り値に2割上乗せする助成を始めたが、出漁回数を改善するには至っていない。市内で居酒屋を営む男性(40)は「少ない地魚を仕入れるために、複数の鮮魚商に頼んでいる。仕入れ値が上がり、刺し身は採算が取れない」とこぼす。
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種子島の暮らしを支えてきた漁業の将来を憂う奥村洋海さん(51)は、工事作業員の送迎のない日は毎日出漁する。4日の初競りにはカンパチ50キロ、カツオ20キロなどを出荷した。「意地だね。このままでは20年後に廃れてしまう」
それでも年間170日の操業日数が昨年は130日ほどに減った。基地本体工事の開始で、送迎や警戒の業務がさらに増えかねない。「安定感を求めて送迎への依存度が高まれば、工事後に漁師を辞める人が増えるのではないか」と危惧する。防衛省からは市内の漁協組合員271人に、工事などに伴う漁業補償を総額22億円とする説明もあった。
伊東恭三郎さん(65)は昨年12月、「しばらく漁に専念したい」と送迎の業務を一時的に断った。「本来は魚を捕るのがなりわいだし、漁師の誇りもある。本当はもっと漁に出たいんだけど…」。葛藤する胸の内を明かした。
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