再選から1年後、馬毛島基地「不同意」を口にしなくなった西之表市長。公約封印につながる伏線はあった
2023/01/19 11:00

岸信夫防衛相(当時、左)に要望書を手渡す八板俊輔市長(中央)=2022年2月3日、防衛省
2021年1月の西之表市長選は、同市馬毛島への米軍機訓練移転と自衛隊基地整備計画の是非が大きな争点となった。計画不同意を掲げた八板俊輔市長は144票差で賛成派の新人との一騎打ちを制し、再選を果たした。
「民意はノー」。当選後に力強く言い放った言葉だったが、やがて揺らぐ。
22年2月、計画を推進する地元選出国会議員とともに、防衛省で岸信夫防衛相(当時)と面会。計画に伴う米軍再編交付金や隊員居住に「特段の配慮」を求めるなど、前向きに捉えるような文言を盛り込んだ要望書を手渡した。以降、「不同意」を口にしなくなった。
伏線はあった。面会に先立って実施した市内各種団体への意見聴取で、再編交付金や基地整備による経済効果を期待する声が「予想以上に多かった」(八板市長)からだ。こうした状況が要望書の裏付けになり、公約だった「計画不同意」の封印にもつながったとみられる。
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市役所内部では、19年11月に島の地権者の開発業者と政府が土地売買に合意した時点で、大勢は決まったとの見方がある。当時、八板市長はまだ計画の是非に踏み込んでおらず、初めて「不同意」を打ち出したのはその10カ月後。計画を巡る動きは、既に防衛省が主導権を握っていた。
同省は、塩田康一県知事が「住民の考えが示される指標の一つ」とした21年市長選を待つことなく、海上ボーリング調査を開始。八板市長の「一度立ち止まって」という呼びかけにも応じず、基地整備の影響を調べる環境影響評価(アセスメント)手続きに入った。
反対運動の中心を長年担ってきた長野広美市議(66)は「市長は『国が土地を持つことで交渉しやすくなる』と言っていたが、そういう状況判断の甘さが今も続く後手の対応を招いた」と指摘する。
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「特段の配慮」を求める要望書を防衛相に提出した後、計画に関する市の内部協議は、ごく一部の幹部に限られるケースが増えた。ある中堅職員は「市長の政治判断の領域に入った」とみていた。
典型が、基地工事に欠かせない島東部の葉山港しゅんせつ同意や、島内の旧小中学校跡地の売却と3市道の廃止だ。いずれも計画反対派が基地整備への抵抗手段に位置付けていたが、市は防衛省の意向に沿う形を選んだ。市長が容認に転じるのは「既定路線」との見方が賛否両派に広がった。
ただ、今月12日に基地本体工事が始まっても八板市長は態度を明言せず、抗議もなかった。実質的な黙認だ。表明のタイミングについて「判断材料がそろっていないので、防衛省との協議をもう少しやりたい」と口を濁す。
賛成派市議の一人は言う。「もう工事は止まらない。方針転換の根拠がほしいだけなのだろう」
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