巨大国家プロジェクトが進む種子島にうごめく思惑…「地方はどこも人の争奪戦」。島内3市町の足並みそろわず
2023/01/20 11:00

沖縄・与那国町の幹部と意見交換する南種子町自衛隊誘致推進協議会のメンバー=2022年5月、与那国町(南種子町提供)
南種子町と町議会、民間の代表者でつくる自衛隊誘致推進協議会は昨年5月、沖縄県与那国島を初めて訪問した。西之表市馬毛島の自衛隊基地整備計画に絡み、隊員や関連施設の受け入れ態勢を視察するためだ。
日本最西端の与那国島は人口約1700人。中国と緊張が続く台湾までは111キロで、海を挟んで見える「国防の最前線」だ。住民投票を経て、16年に陸自駐屯地と沿岸監視隊が創設され、23年度には電子戦部隊も発足する。
駐屯地周辺には手入れの行き届いた公園や全天候型トラックの陸上競技場が並ぶ。視察では与那国町長が隊員と町民の交流が盛んで、医療スタッフの派遣や道路整備が進んでいると説明した。
南種子町側が最も気に掛けたのは暮らしへの影響だったが、小園裕康町長(61)は「自衛隊と地元の連携が取れている。地域にもたらす効果の大きさを改めて実感した」と話す。
■□■
馬毛島の基地整備計画を巡っては、種子島の全1市2町の議会と2町長が賛意を示す。しかし、馬毛島の行政区の西之表市長が賛否判断を先送りしており、足並みがそろわない。各自治体が独自に自衛隊との関係構築や受け入れ準備に動いているのが現状だ。
中でも中種子町は先駆けて20年に官民一体の誘致推進協議会を立ち上げ、協力姿勢を打ち出してきた。昨年12月には隊員宿舎や訓練施設の整備が予定される市街地近くの地域を対象に、空自との合同防災訓練も初めて実施した。
地区を限定した訓練に自衛隊が絡むのは珍しく、馬毛島の基地管理を担う空自との関係強化に乗り出したと言える。田渕川寿広町長(61)は「災害時の対応や経済振興など自衛隊のメリットは大きい」と意義を強調。参加した町民も好意的に受け止めた。
■□■
両町が自衛隊との関係構築を進める背景には、基地完成後をにらんだ思惑もある。中種子町は、かねて駐屯地誘致の意向を示してきた。南種子町は国から町西部の島間港の開発協力を取り付け、西之表港(西之表市)に続く「種子島第2の玄関口」を目指す考えだ。
こうした動きに西之表市の計画賛成派は焦りを隠さない。特に昨年7月、3市町に分散配置される隊員宿舎の居住配分が明らかになると不満が噴出した。総隊員数150~200人程度のうち、西之表が最多だったものの、中種子と「ほぼ同数」とされたからだ。
「人口減社会の中で、地方はどこも人の争奪戦だ」と杉為昭市議(56)。「基地の影響を最も受ける西之表が、なぜ中種子と変わらないのかという声をあちこちで聞く。官民一体で要望を続けてきた強みが働いたのだろうか」と推測する。
3市町の年間予算は合わせて250億円余。その数十倍に及ぶ巨大な国家プロジェクトは、種子島島内に溝を生みかねない。
あわせて読みたい記事
-
包丁持って郵便局へ 「金を出せ」5万5000円奪う 自転車で逃走、15分後に現行犯逮捕 都城3月31日 10:50
-
鹿児島県議選が告示、定数51に77人が立候補届け出(午前9時現在) 4月9日投開票3月31日 10:16
-
南日本文学賞贈賞式 小説・馬場さん「創作は充実した青春」 詩・栫さん「選評から光が見えた」3月31日 10:14
-
桜眺め茶人・島津義弘しのぶ 野だて茶会や歴史トークショーも 加治木で「扇和宴」3月31日 10:00
-
廃棄物の抑制で連携協定 循環型社会の実現目指す 「暮らしと自然守る」 屋久島町と2企業3月31日 08:30
-
馬毛島で見つかった旧石器時代の「八重石遺跡」 基地工事進める防衛省に発掘調査を勧告 鹿児島県教委3月31日 08:27
-
新緑の中、活気づく 一番茶摘み始まる 生産量日本一の鹿児島・南九州市3月31日 07:32