家畜保健衛生所はイメージ悪い? 移転先の高千穂地区住民が「文化ゾーンに不適」と猛反対 着工直前の動きに県や市は困惑

 2023/02/02 11:03
建設予定地に立てられた建設反対の看板=1月31日、霧島市牧園町高千穂
建設予定地に立てられた建設反対の看板=1月31日、霧島市牧園町高千穂
 鹿児島県霧島市牧園町高千穂のみやまコンセール近くに、県姶良家畜保健衛生所の移転が計画されている。姶良市加治木にある現庁舎が老朽化したためで、2月初め造成工事に入り、9月以降建築工事に着手、来夏以降の利用開始を目指していた。ところが、着工直前になって近隣住民らから反対の声が高まり、県や市は困惑を隠せない。

 「みやまコンセールやキャンプ場などがある文化ゾーンにはふさわしくない」

 1月25日、牧園町高千穂の霧島自然ふれあいセンターで開かれた住民説明会。約70人が参加し、反対の訴えが相次いだ。「消毒用の石灰がまかれた場所を散歩したくない」「なぜ観光地に必要なのか」「いくら丁寧に説明されても反対」

 県や誘致した霧島市は「候補地の中で面積や立地が最適」「迅速な防疫対応ができ、畜産農家にメリットが大きい」などと説明をくり返したものの、住民らの理解は得られなかった。

 説明会は3時間続き、住民側は近く2回目の説明会開催、候補地の洗い直しや土地の売買契約の白紙撤回などを要求。県と市は「今後対応を協議する」と答えて散会した。

 会で説明した県畜産課大薗浩之家畜防疫対策監は、昨年3月まで北薩家畜保健衛生所長を務めた。所長時代に近隣住民から苦情はなかったため、「こんなにイメージが悪いのか」とショックを受けた様子だった。

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 家畜保健衛生所は家畜の健康や伝染病の予防、健康指導などに取り組み、畜産王国鹿児島を支える施設だ。支所を含め県内に9カ所ある。現在の姶良家畜保健衛生所は1967年に整備され、獣医師を含む15人が勤務する。築50年を過ぎた頃から老朽化のため移転を求める声が出てきた。

 県は2021年度当初予算に移転先候補地の検討費用を計上。21年5月、保健衛生所管内の霧島市や姶良市などに候補地選定を打診し、霧島市は市有地10カ所ほどを提案した。建設予定地は約1万平方メートル。現庁舎の敷地面積は3139平方メートルで約3倍の広さになる。

 姶良家畜保健衛生所によると、姶良市加治木町木田の住宅地にある現庁舎に、周辺住民から悪臭など苦情が寄せられたことはないという。県は「解剖や焼却を常時しているわけではない。最新設備を使い煙や匂いもない」。市も「観光や住民に悪影響はないと考えている」としている。

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 建設予定地付近は、1896年に国立の九州種馬場ができ、1950~96年は旧牧園町が馬の放牧場を運営してきた。2003年の県農業大学校移転前まで、畜産工学部の牛舎や豚舎もあり、建設予定地は同学部の牧草地。農業大学校跡では昨年秋、全国和牛能力共進会も開かれた。古くから畜産に縁が深い土地だ。

 昨年12月に計画を知ったという住民らは同月下旬、「移転計画見直しを求める住民の会」を設立。県と市に1月の住民説明会の開催を求め、参加を呼びかけるチラシ千枚を配布。周辺に「建設反対」の看板も設置した。代表を務める男性(75)は「計画を知らなかった住民ばかり。断固白紙撤回」と強調する。説明会でも「周知が足りない」との追及が多かった。

 県によると、昨年6月、高千穂地区の自治会長や観光関係者に向けて地元説明会を開催した。「自治会長は住民の代表。周知はしたつもりだが、結果的に不十分だったのかもしれない」

 県は工事日程を遅らせることも含めて対応を検討中で「市と調整を進める」としている。中重真一市長は「畜産振興のため不可欠な施設。建設予定地は宮崎県との県境で連携も取りやすい」と理解を求める。

 住民らは県や市からの回答を待ちつつ、移転計画の見直しを求め、署名千筆を目指し高千穂7区自治公民館前で呼びかけを開始した。署名を添えて塩田康一県知事に要望書を提出する予定。代表は「県や市の回答が要望に沿うものでなかったら知事との直談判も視野に入れている」と話している。