もうすぐ打ち上げ新型ロケットH3 目玉のエンジン「LE9」は安くてパワフル、でも開発は苦闘の連続

 2023/02/08 21:10
大推力を発揮するH3ロケットのメインエンジン「LE9」(JAXA提供)
大推力を発揮するH3ロケットのメインエンジン「LE9」(JAXA提供)
 鹿児島県の種子島から打ち上げるH3ロケットの目玉の一つが、メインエンジン「LE9」だ。大型液体ロケットの主エンジンとしては世界初となる燃焼方式を採用した。前身のH2Aより推力を1.4倍に増やす一方で、低価格化も目指す。ただ「ロケットエンジン開発には魔物が住んでいる」と呼ばれるように、開発は格闘の日々が続いた。

 「注意深くやってきたつもりだったが、われわれの想像力、経験を超えた」。宇宙航空研究開発機構(JAXA)H3開発チームの岡田匡史プロジェクトマネジャー(60)はLE9に不具合が見つかり、対応に追われた2020年を振り返った。

 5月のLE9燃焼試験で、燃焼室内壁に複数の亀裂が生じた。ターボポンプ内のタービンの羽根にもひびが入った。

 原因調査やタービンの設計見直しに時間がかかり、当初予定した20年度内の打ち上げを延期。対策にめどが立ったものの、新たにタービン土台部分に振動が確認され、再延期を余儀なくされた。

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 H2Aのメインエンジンには燃焼室が二つある。最初に副燃焼室で推進剤の一部を燃やして高温ガスを発生させる。そのガスを使ってターボポンプを動かし、主燃焼室で残りの推進剤を再度燃やして推力を確保する。この燃焼方式は2段燃焼サイクルと呼ばれる。

 2段燃焼は推進剤をしっかり燃やせ、推力を効率よく得られる。ただ燃焼室が二つあるため構造が複雑で、どこか不調を来すと爆発の恐れが高まる。部品数も多く、割高だった。

 LE9では、大推力のメインエンジンには不向きとされた「エキスパンダーブリードサイクル」を採用。燃焼室を一つにして単純化し、低価格化を目指した。

 燃焼室が巨大化すると振動が大きくなったり、壁面が高温化して破損につながったりする危険もはらむ。燃焼室壁面の吸熱効率の向上を図り、振動を抑える機材設計を進めてきたが、実験で亀裂や振動が生じた。

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 昨年10月のイプシロン6号機打ち上げ失敗の影響も受けた。H3はイプシロンと部品の共通化を図りながら開発してきた。当初失敗原因の一つと見られた姿勢制御装置内の弁と、型は違うが同一メーカーの弁がH3でも使われており、急きょ別メーカーに変えた。

 H3の当初開発費は約1900億円。不具合が重なった影響で、22年度までの予算要求額は約2060億円に膨らんでいる。だが、相次ぐ設計見直しによって、これまで気づいていなかった振動事象を確認できた。岡田プロマネは「不具合から得られた成果は少なくない。安定的な運用を続け、国内外のニーズに応える機体にしたい」と強調する。

 世界的にも高い成功率を誇るH2Aの後継機として、低コスト化や打ち上げ能力の増強などを目指し開発が進められたH3。低迷が続く日本のものづくりの復権へ、テイクオフの秒読みが近づく。