国宝指定の効果はすごかった…霧島神宮、1年たっても連日参拝客で大にぎわい 防災機能強化も進む

 2023/02/09 11:00
多くの参拝者でにぎわう霧島神宮の境内=霧島市霧島田口
多くの参拝者でにぎわう霧島神宮の境内=霧島市霧島田口
 霧島神宮(霧島市霧島田口)が、県内の建造物で初めて国宝に指定され、9日で1年を迎えた。新型コロナウイルスの影響で、周知やイベントが十分にできない時期があったものの、国宝効果のためか連日多くの参拝者でにぎわう。指定を機に神宮では社殿を守るため、防災機能の強化に乗り出している。

 2月初めの霧島神宮境内。休日で天気にも恵まれ、参拝者がひっきりなしに訪れた。50年以上通うという有福彰さん(68)=鹿児島市=は「国宝になって誇らしい」と御朱印を買い求めた。

 指定後、神宮にはメディアからの取材や問い合わせが200件ほど寄せられ、関心は高まっている。赤崎大和(やまと)総務部長は「この1年で、知名度は確実に上がった」と手応えを感じている。

 とはいえ、コロナ下の指定は「感染拡大防止のため、人を呼びたくても呼べず、もどかしい1年だった」と振り返る。節分祭や新嘗祭(にいなめさい)といった祭事は人数を制限し、関係者のみの状態が続く。昨年2月に予定していた社殿の特別拝観も取りやめになった。

 今後、コロナの感染症法上の位置付けが「5類」に引き下げられれば、以前のように一般客も祭事に参列できるようにする方針だ。「国宝になった社殿を見たいと多くの要望をもらっている。特別拝観を春と秋にも実施したい」

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 今年の正月三が日は、昨年より5000人多い25万5000人が参拝。近くでお面展示施設「霧島天狗(てんぐ)館」を営む吉村ノリ子さん(81)は「正月を過ぎても、休日になると参拝者の車で行列ができている。こんなことは初めて」と驚く。

 参道横の観光施設「霧島民芸村」も、多くの客でにぎわう。例年1月下旬からは閑散期だが、併設する食堂と菓子店「薩摩蒸気屋」には休日になると昨年の倍の客が訪れているという。藤田章太郎部長(54)は「コロナ前と同等かそれ以上の利用がある。繁忙期の秋にはさらに多くの人出が予想されるので、従業員を増やすなどしたい」と話した。

 一方、宿泊施設はあまり効果を感じていないようだ。近くのホテル、アクティブリゾーツ霧島の白石英昭総支配人(50)は「県外の宿泊客は、霧島に来るまで神宮のことを知らなかった人も多い。県や市には全国への積極的なPRを期待したい」と要望した。

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 国宝指定を受け、神宮では防災態勢の見直しが進む。国宝となった社殿の周辺に、植えられている百本ほどの樹木。高さ数十メートルを超える大木も多く、台風などで倒れると、社殿に大きな被害が及びかねない。3年ほどかけて伐採や整備を進めていく考えだ。

 防火面にも課題がある。境内の貯水タンクは、フル稼働すると15分しかもたない。消防からは現在の4倍の貯水量を求められている。消火栓も50年前に設置したものを使っており、更新時期を迎える。

 煙や炎の探知機も設置しているが、自動通報機能はない。そのほか防犯対策として、不審者の侵入を防ぐ柵を本殿の裏山に設置することも検討中という。

 必要な取り組みを全て実施すると、数億円かかりそうだ。国や自治体の補助金だけでは、とても賄えないことから、神宮は一口2000円の奉賛金を募っている。

 赤崎部長は「国宝に指定され、先代から受け継いだ社殿を未来へ残す責任はいっそう重くなった。一歩進んだ対策を進めたい」と話している。

 ■霧島神宮 6世紀中ごろ慶胤(けいいん)という僧が、高千穂峰と御鉢噴火口の間にある脊門丘(せとお)に社殿を建てたのが始まりとされる。霧島山の噴火や火災で移転を繰り返し、1484年に現在地へ。現在の社殿は1715年、薩摩藩主・島津吉貴の寄進で建立。社殿のうち、本殿と幣殿、拝殿が国宝に指定された。龍柱をはじめ、東アジア文化圏の影響を受けたとされる豪華な装飾などが評価を受けた。天照大神の孫神、ニニギノミコトを主祭神とする。