国の重要文化財指定1年 鹿児島神宮の観光客は増えたけど…すぐに帰ってしまうのが残念 憩いの場づくりへ新たな計画進行中

 2023/02/13 08:30
鹿児島神宮を訪れた参拝客。拝殿の天井にはバナナやソテツなど200を超す植物が描かれている=霧島市隼人町内
鹿児島神宮を訪れた参拝客。拝殿の天井にはバナナやソテツなど200を超す植物が描かれている=霧島市隼人町内
 霧島神宮の国宝指定と同時に、国の重要文化財(重文)となった鹿児島神宮(鹿児島県霧島市隼人町内)。知名度が上がり、県内外からの観光客が増えた。神宮は参拝者がより快適に過ごせる環境づくりと、火災対策の強化を進めている。

 コロナ前は、お宮参りや車の安全祈願などを目的に、地域住民が訪れるのが主で、観光客は多くなかったという。コロナ下で落ち込んだ祈願目的の地元参拝者を、重文指定後に増えた県内外からの観光客が埋めている状態だ。

 伊賀昇三禰宜〈ねぎ〉(59)は「アジアからの団体旅行客を見かけるようになった。初めてのことで驚いた」と話す。

 参拝客は増えたものの、社殿を1回りすると帰ってしまい、滞在時間が短いことが課題となって浮上した。その対策として、参拝者の憩いの場所づくりを進める。

 その一つが、駐車場内に築100年近い和洋折衷の邸宅を移築する計画だ。南日本銀行の創業に関わった高木時吉氏(1892~1944年)が、27年に隼人港近くに建てた木造平屋(延べ床面積約300平方メートル)。洋館を併設しており、市の文化財に指定されている。

 観光客などのおもてなしの場所やお茶会といったイベント会場として、2025年秋ごろの完成を目指す。伊賀禰宜は「参拝後もゆっくりとした時間を過ごし、心をリフレッシュしてほしい」。

 火災への備えも加速させる。境内には貯水タンクがない。初期消火には、井戸水と水道を用いる予定だが、火災の起きやすい渇水期は、井戸水が枯れる恐れがある。

 今後、早急に貯水タンクや自家発電機などを整備する予定だが、数億円かかる見通し。伊賀禰宜は「予算は厳しいが、由緒ある社殿を火災から守りたい」と話している。

■鹿児島神宮 708年の創始とされる。平安時代の延喜式(律令の施行細則)に「鹿児島神社」の名で薩摩、大隅、日向で唯一の大社として記載されている。現在の社殿は、1755年に薩摩藩主・島津重年の寄進で工事が始まり、翌年に完成。1874年に「鹿児島神宮」の名称になった。2022年に本殿・拝殿、勅使殿、摂社四所神社本殿の3棟が国の重要文化財に指定された。拝殿の天井にはバナナやソテツなど200を超す植物が描かれている。彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)と豊玉比売命(とよたまひめのみこと)を主祭神とする。