金に困りSNSの闇バイトで特殊詐欺 指示役に住所知られ「報復怖くやめられず」  鹿児島地裁、35歳男に実刑判決

 2023/02/10 08:30
 警察官を装い、鹿児島県内の高齢者からキャッシュカードを盗み、現金を引き出すなどしたとして、窃盗と窃盗未遂の罪に問われた鹿児島市の無職の男(35)の判決公判が9日、鹿児島地裁であり、此上恭平裁判官は「組織的、計画的で悪質」として懲役2年6月(求刑懲役3年6月)を言い渡した。金に困り、交流サイト(SNS)の「闇バイト」に応じ、短期間に犯行を重ねた手法は、各地で相次いだ広域強盗事件とも類似する。被告は「指示役の報復が怖くてやめられなかった」と語った。

 「お金に困っている」。2022年7月、無免許運転の罰金30万円を払えずにいた被告がツイッターでつぶやくと匿名のメッセージがすぐ届いた。高額報酬をうたった闇バイトの誘いだ。

 7月23日、高齢女性宅の電話が鳴る。氏名不詳の共謀者が「郵便局の口座が詐欺に利用されている。警察官を向かわせます」と告げ、すぐに被告が玄関のチャイムを押した。「刑事課のハシモトです。キャッシュカードを確認させてください」。指示通りにまくし立てた。女性は言われるがままにカード2枚を玄関先に持ってきた。

 「暑いですし、水でも飲んできたらどうですか」。促された女性が居間に行っている隙に玄関先に置かれたカードをかばんに入れ、用意していたトランプ入りの封筒とすり替えた。戻ってきた女性に「封筒にキャッシュカードを入れておきました。絶対に開けないでください」と言い残し、立ち去った。

 判決によると22年7月、同様の手口で他に3件の犯行を繰り返し、キャッシュカードから現金計約200万円を引き出した。検察は偽造の「被害者救済法申請書」を渡して名前や暗証番号を入手したと指摘した。

 被告の「報酬」は17万円だった。大半は指示役などに渡ったとされる。「怪しいと思ったが、金欲しさに引き受けた。指示役に住所を教えていたため、報復が怖く中断できなかった」と後悔を口にし「全て指示通りで、自分の判断で動いたことはない」と述べた。

 広域強盗事件でも金に困った若者が闇バイトに手を出し実行役になった。実行役から足がつくのは今回の事件も変わらず、誰が指示役だったかは分かっていない。「代わりの利く手足にすぎない」。最終弁論で弁護人が放った言葉が、闇バイトの実態を象徴していた。

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