嘉徳海岸「護岸で集落は守れない」 工事差し止めならず、反対派住民怒りあらわ 早期完成求める声も

 2023/02/18 10:03
請求棄却の判決を批判する原告や弁護団=17日、鹿児島市の鹿児島地裁前
請求棄却の判決を批判する原告や弁護団=17日、鹿児島市の鹿児島地裁前
 鹿児島県が瀬戸内町嘉徳海岸で計画するコンクリート護岸の浸食対策工事を巡り、反対する住民ら10人が県に対し公金支出の差し止めと、支出済みの公金を知事個人に賠償請求するよう求めた住民訴訟の判決で、鹿児島地裁(古谷健二郎裁判長)は17日、原告の請求を棄却した。住民らは控訴する方針。

 嘉徳海岸は2014年の台風で砂浜が集落近くまで浸食された。県は事業費約3億4000万円で高さ約6メートル、全長180メートルのコンクリート護岸を計画。原告は護岸整備がかえって浸食を招き、生態系に悪影響を与えると主張した。

 判決理由で古谷裁判長は、護岸の設置場所は海側にせり出していないと指摘。浸食を招くとの主張を認めなかった。集落住民の生命や財産に危険が生じる可能性がある以上、「県の判断の不合理性を基礎付ける事情に当たらない」として請求を退けた。

 原告は工事の費用対効果がないとして19年3月、公金差し止めを求めて提訴した。県側は砂の回復を認めるものの、再び浸食される恐れがあるとして請求棄却を求めていた。

 塩田康一知事は「住民の生命や財産を守るため、早期に工事を進める必要がある」とのコメントを出した。

■原告「抗議続ける」

 鹿児島県が瀬戸内町嘉徳海岸で計画するコンクリート護岸の浸食対策工事の差し止め請求を退けられた原告らは17日、「諦めずに抗議を続ける」と反発。一方、早期整備を求める住民らは判決を歓迎した。

 「護岸で集落や住民は守れない。砂浜がなくなってしまう」。原告のジョンマーク高木さん(50)は、判決後の報告集会で怒りをあらわにした。

 弁護団の一人は世界自然遺産に登録された奄美大島の価値を強調。海岸一帯は世界遺産地域を効果的に保全するための緩衝地帯で、「護岸を整備するとどうなるか、何も考慮されていない」と批判した。

 奄美大島では同日、瀬戸内町の鎌田愛人町長が護岸の早期完成を求める要望書と、工事に賛同する集落住民ら計7270人分の署名を県大島支庁に提出。集落の全住民19人のうち15人が名前を連ねた。会見した住民は「守るべき土地や財産、墓がある私たちの気持ちを分かってほしい」と工事の必要性を訴えた。

 嘉徳海岸の工事は反対住民らの抗議活動で昨年10月から中断が続く。県は「理解を得られるよう説得を続ける」としている。