「駅伝は人生そのもの。努力は実る」 81歳元ランナーの教え、子や孫3世代でたすきリレー【鹿児島県下一周駅伝】

 2023/02/19 11:00
3区を力走する川辺チームの茅野智裕さんを沿道で応援する家族ら=18日、鹿児島市喜入
3区を力走する川辺チームの茅野智裕さんを沿道で応援する家族ら=18日、鹿児島市喜入
 18日、熱戦の火ぶたを切った鹿児島県下一周駅伝は、新型コロナウイルス対策による応援自粛要請がなく、沿道に3年ぶりの活気が戻った。声は出せないが、走り去る選手を前に横断幕を掲げ、拍手を送る大勢の人たち。川辺チームで孫2人が出走し、長男が監督を務める茅野薫さん(81)=枕崎市=も家族と間近で見つめた。

 20度を超す陽気の中、汗を飛ばしながら選手が通ると、沿道から拍手やスティックバルーンを打ち鳴らす音が響いた。孫2人の応援に駆けつけた薫さんは、まず鹿児島市喜入前之浜町の国道226号脇で智裕選手(23)を鼓舞。“川辺カラー”の青地にピンク色で名前を書き込んだ旗を大きく振った。

 各チームのエースがそろう3区を任された智裕選手は、祖父の目の前で力強い走りを見せた。「流れを変えたかったが、リズムに乗れなかった」と悔しさをにじませつつ、「家族や友人の応援で諦めずに走り切れた」と振り返る。薫さんは「自分が走るかのように緊張した。一生懸命な姿に勇気をもらえた」と顔をほころばせた。

 薫さん自身も加世田農業(現加世田常潤)高3年だった64年前、川辺チームで初出走。歓声に驚きながら、無我夢中で坂を駆け上がった。茶業試験場などに就職後も練習に励み、9回メンバー入り。「駅伝は坂道が多く人生そのもの。一番苦しいときに踏ん張る根性がついた」と振り返る。

 長男竜生さん(52)が別府中(枕崎市)に入ると駅伝部が創設され、元川辺監督の校長の頼みでコーチを引き受けた。技術面だけでなく、諦めない心や目標を持つ大切さを部員に伝えた。

 もともと走るのが得意でなかった竜生さんは練習を重ね、鹿児島商高1年のときからメンバー入り。アンカーとして総合優勝のゴールテープを切ったこともある。「幼いころは気が弱く引っ込み思案だったが、精神力や体力を培って自信がついた。その魅力を今は監督として伝えている」

 兄雅博選手(24)と弟智裕選手は、駅伝に携わる父の姿を見て育った。起伏の多い5区を走った雅博選手は「沿道の活気がパワーにつながった。次回も1秒でも早くたすきをつなぎたい」。中継所に駆け付けた祖父からねぎらわれ、笑顔を見せた。

 「努力すれば結果はついてくる」。祖父の教えを今は息子が監督として伝え、孫やメンバーが実践する。「私たち家族は県下一周駅伝とともに歩んできた。駅伝が続く限り、家族の思いは消えないだろう」