20回連続出場 曽於チーム・坂中選手が万感ラストラン 「輝けた唯一の場所。感謝しかない」 今後は指導者の道へ【鹿児島県下一周駅伝】

 2023/02/23 11:00
仲間たちに胴上げされる坂中省章選手=22日、鹿児島市のみなと大通り公園
仲間たちに胴上げされる坂中省章選手=22日、鹿児島市のみなと大通り公園
 「1、2、3」-。鹿児島県下一周駅伝最終日の22日、曽於チームの坂中省章選手(36)が最終11区を走りきると、同僚の選手に抱きかかえられ、宙に舞った。「輝ける唯一の場所が駅伝だった。感謝しかない」。20回連続出場のタフガイは、ラストランに万感の思いで涙をふいた。

 胴上げの横には、肝属チームの兄伸作選手(39)、駅伝を通じて出会った妻千尋さん(31)、長男悠真君(6)、次男湊君(4)の姿もあった。「省(せい)ちゃん、お疲れさま。よく頑張りました」。千尋さんがそっとハンカチを渡すと涙は止まらなくなった。「ずっと支えられて、仲間と走り合えて…。本当に幸せ者」と声を詰まらせた。

 息子2人は千尋さんが特注で作った「省章しか勝たん」とプリントされたトレーナーを着て迎えた。駆け寄った2人に「今日の走りを子どもたちが覚えてくれていたらうれしい」と優しく頭をなでた。

 腕を小刻みに振り、上体は反り気味。決してきれいなフォームとはいえない。歯を食いしばり、苦しい表情を前面に起伏の激しい坂道でも一定のペースで走る。レース終盤もうひと踏ん張りできるのが持ち味だ。

 江川一正監督(58)が「馬力で押すタイプ。どの区間を任せても大崩れしない」と評せば、ともに競い合った四俣勇人選手(36)は「逆境に強い駅伝男」と言い切る。

 だが、体は限界に達していた。第3日2区。地面を蹴るように突き進む全盛期の姿はなく、区間最下位に。この日も同じ結果に終わった。30歳を過ぎると体力が衰え、両足ふくらはぎの故障にも泣かされた。走り込みは月300キロまで落ちた。「悔しいけど、これが今の自分」と認める。

 忘れられないのが2005年、尚志館高校3年の時に実現した伸作選手との兄弟リレー。区間賞でたすきを渡し、日間優勝に貢献した。「あの時の感動があったから続けてこられた」

 大学卒業後は陸上部があった地元のナンチクに就職し、Aクラスや第4日の郷土入り優勝を支えた。出場20回で区間賞6回を獲得。全ての順位と途中棄権も経験した。全53区間中、26区間を走破したのも自慢だ。

 チームはかつてない低迷にあえぐ。「現状を打破したい」と危機感は強く、引退後は子どもたちの指導者を目指す。「曽於地区の競技人口を増やしたい。駅伝の楽しさも厳しさも味わった経験は生きるんじゃないかな」。両手を上げて切ったゴールテープは新たな道へのスタートラインになった。