良き住民であり、狙撃手であり…「盾となり、矛となる覚悟はある」 抑止力の役割拡大する奄美の自衛隊

 2023/02/27 08:30
実弾の狙撃訓練をする自衛隊隊員=2022年11月21日、奄美市の陸上自衛隊奄美駐屯地
実弾の狙撃訓練をする自衛隊隊員=2022年11月21日、奄美市の陸上自衛隊奄美駐屯地
 鹿児島県の奄美大島に二つの自衛隊拠点ができて3月で4年となる。防衛の空白圏とされた島は、米軍が頻繁に訪れ「要衝」の色合いを強めている。戦後日本の大転換である敵基地攻撃能力(反撃能力)を担う装備の配置も取り沙汰され、「盾」から「矛」へと役割を変えつつある。

 「おはよう。今日も元気だね」。15日朝、奄美市名瀬の朝日小学校前。小雨が降る中、迷彩服の自衛隊員が交通安全の小旗を持ち、登校する児童に明るく声をかけていた。

 校区はこの10年ほどでベッドタウン化が進み、奄美群島最多の児童約660人が通う。学校に近い陸自奄美駐屯地の現場隊員らは、1年半ほど前から「地元に貢献したい」と連日通学路に立つ。

 駐屯地の開設当初、行き交う装甲車や隊員は住民に異様なものと映った。しかし、地域の草刈りに隊員らが駆け付けるなど交流が進み、迷彩服で通勤する姿は日常風景に溶け込んだ。

 登校の見守りを十数年続ける民生委員の小勝やす子さん(69)は「隊員は細かいところに気配りしてくれるので大助かり。頼れるお兄さんたち」と喜ぶ。

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 小学校から車で約5分。山道を上り、標高200メートルのゴルフ場そばに駐屯地はある。「ズダーン」。昨年末、厚いコンクリートで覆われた屋内射撃場には雷鳴のような銃声がこだましていた。

 「頭より少し上にずれた」。教官が300メートル先の標的をチェックする。数十分とはいえ、実弾を使った狙撃。汗だくになった隊員の表情は「外」とは全く別の緊張感をまとっていた。

 米軍、豪州、韓国、フィリピン、北大西洋条約機構(NATO)……。隊舎には訪れた部隊のバッジなどがずらりと並ぶ。東シナ海を望む敷地内では、レーダーを使った沿岸監視や偵察ドローン「スカイレンジャー」と連携した戦闘訓練なども重ねる。

 対戦車部隊の30代小隊長はウクライナ侵攻の事例を研究し、前線をイメージしているという。「いかに部下を死なせないか。その後ろには家族、島民がいる」

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 奄美の部隊は、戦闘機を「03式地対空」、艦艇を「12式地対艦」の両誘導弾(ミサイル)で迎え撃つ任務も担う。海洋進出を強める中国への「抑止力」として、その役割は日ごとに重みを増す。

 12式は射程を現行から5倍超の千キロ程度に延ばす開発が進む。日本が初めて持つ敵基地攻撃能力(反撃能力)となる装備だ。政府は能力向上型の配備は未定とするが、防衛省幹部らは「地政学的に奄美は重要。基地感情も沖縄と全く違う」と有力視する。

 奄美に配備されれば、中国や台湾が射程に入る。防衛省側には中国のミサイルが既に日本本土を射程に入れているとの理屈がある。隊員らは「盾となり、時に矛となる覚悟はある」と話す。

 一方で住民に「最前線」と化した実感は乏しい。駐屯地のお膝元の大熊町内会長で陸自OBの畑秀義さん(69)は言う。「部隊を消防団のように捉えている面は否めない。本当は役割の重さを知った上で受け入れてほしい」

(連載「盾から矛へ 安保激変@奄美」1回目より)