駐屯地の恩恵は大きいが…「国の思うがままの島になる」 奄美経済、自衛隊依存進む

 2023/03/02 08:30
防衛施設周辺対策事業に採択され工事が進む奄美大島食肉センター=2月7日、奄美市名瀬
防衛施設周辺対策事業に採択され工事が進む奄美大島食肉センター=2月7日、奄美市名瀬
 鹿児島県の奄美市街地から南に約6キロ。市有地の一角で「奄美大島食肉センター」の移転新築工事が進む。2019年の陸上自衛隊奄美駐屯地(同市名瀬大熊)の開設に伴い、本年度初めて防衛施設周辺対策事業に採択された。

 同事業は、施設が生活環境や周辺の開発に影響を及ぼすと国が認めた場合に適用される。道路や農林水産業の関連施設、公園といった幅広い事業で申請できる。補助率も50~80%と高い。

 家畜を処理する食肉センターは整備費が大きくなるが、対象の補助金はない。市にとって事業採択は「渡りに船」だった。総事業費10億7889万円のうち、手出しは約3億5000万円に抑えられた。

 「財政負担を減らしながら、既存施設の更新を考える上でありがたい。引き続き活用したい」と安田壮平市長。市はほかに地方交付税や基地交付金を含め、防衛関連で毎年約2億円の歳入を見込む。

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 「隊員とその家族で島全体の人口が約千人増えた。消費がその分、拡大したことになり、恩恵は大きい」。奄美大島商工会議所の有村修一会頭(66)は駐屯地の経済効果を語る。

 新型コロナウイルス禍で繁華街から客足が遠のく中、2月5日にあった奄美駐屯地4周年の記念イベントには、朝から多くの飲食店関係者が詰めかけた。

 繁華街の屋仁川通りで居酒屋を営む40代男性は「夜の商売の人は普段寝ている時間帯。それだけ隊員は大事な客ということだろう」と推測する。「隊員は島民より支払う額が多い。まだ1回の来店人数は少ないが、コロナ収束後に期待している」と明かす。

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 一方、自衛隊に依存する経済構造はひずみを招きかねない。市の人口を見ると、駐屯地開設後の19年度こそ4万3000人で前年からほぼ横ばいだが、以降は減少傾向。22年度は4万1600人になった。

 瀬戸内町の瀬戸内分屯地の工事を請け負った地元建設業の40代男性は、一定の経済効果を認めつつ「一過性だった」と振り返る。工期1年などの突貫工事が多いため、人も資材も集中して確保することに追われた。とても集められず、結局は大手ゼネコン頼みで利益率は低かった。

 別の建設業40代男性は、陸自が配備された後、町が海自奄美基地分遣隊の拡充へ一層前のめりになったと感じる。「事業をもらうことばかりに注力し、自立の気概を失う」。奄美群島振興開発(奄振)の負の側面と重なるという。

 奄美は世界自然遺産登録を機に、観光業などに追い風が吹く。男性は「安保面で地政学的に重要とされる特性は今後も変わらない。どう対等に向き合うか、考えを深めないと国の思うがままの島になる」と懸念した。

(連載「盾から矛へ 安保激変@奄美」4回目より)