魚を食べるのに適した歯、「ひれ」状の尾…新たに発掘されたスピノサウルスの化石から見えてきたのは「水生恐竜」の姿だった

 2023/03/06 11:27
2019年、筆者がスピノサウルスの歯化石を発表した会見で披露した復元イラスト。当時の学説ではまだ、尾はひれ状ではなかった=(C)川崎悟司
2019年、筆者がスピノサウルスの歯化石を発表した会見で披露した復元イラスト。当時の学説ではまだ、尾はひれ状ではなかった=(C)川崎悟司
■サラリーマン化石ハンター・宇都宮聡さん

 私が和歌山県で歯化石を発見したスピノサウルスの姿は、恐竜の中でも独特です。縦筋が入った円すい状の歯をはじめ、背中に背びれのように突き出た帆、ティラノサウルスをしのぐ全長15メートルに達する巨体だからです。謎めいた生態に迫る研究論文は近年、立て続けに報告されています。

 研究は、北アフリカで見つかった化石標本を基にドイツで始まりました。しかし、第2次世界大戦の空襲で、標本が破壊されてしまいます。化石が残されていないため、姿や生態について、さまざまな説が出されました。映画「ジュラシック・パーク3」で、陸上を二足歩行する姿もその一つです。

 復元像が水中生活に適した姿に変わったのは、2014年発表の論文がきっかけでした。アフリカのサハラ砂漠で発掘された化石標本から、魚を取って食べるのに適した歯の形状や、体の割に後ろ脚が短く、陸上を歩くのに不向きだったことが分かりました。

 新たに保存状態が良い、連続した尾骨部分も発見されました。調査を進めると、大きな「ひれ」状だったことが判明。この尾を使い、自由に泳ぎ回っていたと想像できます。陸上を歩き回るより、主に水中で暮らすのに適した珍しい体のつくりだったのです。20年に「水生恐竜」論の決定打とも言える論文として発表されました。

 和歌山で見つけた歯化石について、東京都市大学の中島保寿准教授が、アジアにおける進化と周辺の生態系を解き明かす研究を進めています。日本の新知見が、論文として世界発信される日が近いのです。

【プロフィル】うつのみや・さとし 1969年愛媛県生まれ。大阪府在住。会社勤めをしながら転勤先で恐竜や大型爬虫類の化石を次々発掘、“伝説のサラリーマン化石ハンター”の異名を取る。長島町獅子島ではクビナガリュウ(サツマウツノミヤリュウ)や翼竜(薩摩翼竜)、草食恐竜の化石を発見。2021年11月には化石の密集層「ボーンベッド」を発見した。著書に「クビナガリュウ発見!」など。

(連載「じつは恐竜王国!鹿児島県より」)

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