“安全の番人”なのに…「政府に弱腰」の原子力規制委に批判 60年超運転 川内原発の立地自治体は「情報不足」指摘

 2023/03/06 11:04
高経年化した原発の安全規制を検討する原子力規制委員会会合には反対派住民が多く駆けつけ、時折怒号が飛び交った=2月13日、東京・六本木
高経年化した原発の安全規制を検討する原子力規制委員会会合には反対派住民が多く駆けつけ、時折怒号が飛び交った=2月13日、東京・六本木
 政府が閣議決定した原発の60年超運転を可能にする関連法改正案の国会議論が熱を帯びている。脱炭素とエネルギー不足を背景にした岸田文雄首相の原発回帰表明から半年あまり。拙速との批判に加え、政府に対して弱腰にも映る原子力規制委員会の対応に野党側が批判を強める。薩摩川内市など立地自治体からは、安全規制の実効性や情報不足に不安の声も漏れる。

 1日に始まった参院予算委員会では連日、原発関連の質疑が続く。初日は立憲民主党の辻元清美氏が登壇。運転60年未満でも経年劣化を理由とした事故や不具合が相次いでいるとし、「それ以上に延ばすのは非現実的だ」と迫った。岸田首相は「原子力規制委員会が世界一厳しいと言われる基準に基づいて安全性を確認する」とかわした。

 首相をはじめ政府が“安全の番人”と持ち上げる規制委だが、ここに来て信頼性に疑問符がつきつつある。制度見直しを巡り、事務局の原子力規制庁と経済産業省との間で、「頭の体操」と称する複数回の面談や電話でのやりとりが発覚。山中伸介委員長は「透明性を欠いた部分があった」と釈明に追われた。

 福島第1原発事故の教訓である「規制と推進の分離」の形骸化には与党内からも不安の声が聞かれる。原発推進の自民党中堅は取材に「規制委が政府と歩調を合わせているような印象は、原発に否定的ではない国民でさえ不安を覚えるのでは。地元自治体の反感も買いかねない」と危惧する。

 九州電力川内原発が立つ鹿児島県薩摩川内市が選挙区の野間健衆院議員(鹿児島3区、立憲民主党)は「エネルギー不足が声高に叫ばれ、議論が拙速に進められている」と指摘する。「不安の声に答えるという姿勢が政府にも規制委にも足りない」とし、今後運転延長を巡る議論を深めるための専門の委員会審査を与党側に求めていく考えだ。

 情報が少ないことに同市の田中良二市長も「具体的な内容が見えてこない。国のいう規制強化の方法やスケジュールのアナウンスもない」と不安をのぞかせる。1、2号機で進む60年までの運転延長審査に触れ、「60年を超える法改正議論が進む中で、実際に審査中なのは薩摩川内だけ。市民は大きな関心を寄せている」と話す。

 同市をはじめとする住民への情報提供不足は規制委側も認めるところだ。1日の定例会見でこの点を聞かれた山中委員長は「(経年)劣化で何が起きるのか。規制の立場から説明する必要がある」と強調。新しい規制制度の全体像を分かりやすく伝える資料を近くまとめる考えを示した。