他国から武力攻撃されるシナリオ…なぜ屋久島で訓練? 島民1.2万人避難に「最低6日」、実効性に疑問の声

 2023/03/08 09:20
国民保護の図上訓練で避難手順を確認する関係者=1月18日、県庁
国民保護の図上訓練で避難手順を確認する関係者=1月18日、県庁
 他国が大規模部隊を日本の沿岸部に集め、政府は「武力攻撃予測事態」認定の検討に入った-。1月18日、鹿児島県庁であった国民保護図上訓練。県職員が有事のシナリオを読み上げ、内閣官房や航空会社など40機関約80人が住民の避難の流れを確認した。

 屋久島と口永良部島の計1万2000人弱を県本土に避難させる想定。県は島発着の高速船や航空機の平時の輸送力で最低6日かかると試算し、増便で対応するとした。

 ただ、実際に有事となれば大混乱する。迅速な避難準備が求められるが、事態認定の手順を問われた内閣官房は「見通しを示すのは困難」と繰り返した。

 屋久島からオンライン参加した渡邉浩さん(55)は「訓練によって避難が必要な島というイメージが付き、観光客が減るのではないか」と懸念。「やるなら形だけでなく、真剣に突き詰めてほしい」

■□■

 今回の訓練は、屋久島町だけが攻撃されると想定した。他の島や本土は無事という前提だ。参加者からは観光客や医療ケアが必要な人の把握、他の離島から本土に避難する場合の影響など、多くの課題が上がる。

 渡邉さんは訓練の必要性に理解を示しつつ、「紙の上で決めたことを本当に実行できるのか」と実効性に疑問を投げかける。

 県などは同様の想定で来年1月、町民が本土に避難する実動訓練を行う方針だ。2023年度予算案に費用1361万円を計上。主な内訳は人員輸送を含めた実動訓練委託費440万円、空港や病院の施設使用料124万円、図上訓練費300万円となっている。

■□■

 有事の際は、避難を担う輸送機関の安全確保も欠かせない。指定公共機関のマルエーフェリー安全管理対策室の川原義人さん(68)は、自衛隊主催の国民保護訓練に数回参加している。それでも「乗組員の安全を私たちが的確に判断できるか非常に不安」と明かす。

 国主導の共同訓練の評価委員長を務める国士舘大の中林啓修准教授(危機管理学)は今回の鹿児島県庁での訓練にも出席。取材に対し、「大まかな枠ができた程度。実効性ある絵姿にはなっていない」と話す。

 屋久島の北東約40キロにある西之表市馬毛島では、米軍機訓練移転を伴う自衛隊基地の建設が進む。「攻撃対象になり得る馬毛島が近いから選ばれた」と不安がる屋久島島民もいる。

 中林准教授は「台湾有事があるなら、鹿児島を含む南西諸島に影響が及ぶ可能性がある。万一の犠牲を少しでも減らすために備えるべきだ」と指摘。「訓練に住民の理解は不可欠だ。県は住民の思いを代弁し、国に主体的に働き掛けを」と訴えた。

 あわせて読みたい記事