海外クルーズ船再開「ありがたいが…」 タクシー会社社長の顔はどこか浮かない 業界の人手不足が深刻

 2023/03/08 10:10
海外クルーズ船が9日から寄港を再開するマリンポートかごしま=1月12日、鹿児島市(本社チャータ機から撮影)
海外クルーズ船が9日から寄港を再開するマリンポートかごしま=1月12日、鹿児島市(本社チャータ機から撮影)
 鹿児島県内タクシー大手、鹿児島第一交通の本社は、海外クルーズ船が寄港する鹿児島市のマリンポートかごしまの目と鼻の先にある。新型コロナウイルス禍前には寄港時、数十台の配車依頼が来ることもあった。担当者が港を見に行き、客が残っていたら追加で配車もした。

 「需要が増えることはとてもありがたい」。下之角洋社長は再開に期待を寄せるが、その顔はどこか浮かない。理由は当時と大きく変わった業界の状況。深刻な人手不足にある。

 運転手の高齢化も進み、コロナ禍で退職に拍車がかかった一方、新たに志望する人は増えない。「普段の運行ですら手いっぱい。対応しきれるかどうか不安だ」と漏らす。

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 クルーズ客が観光地などへ向かう二次交通では、バス業界も同様に人員が減っている。業界関係者によると、9日の初便に手配される観光バスは約20台。「繁忙期ではないので、当面は何社かの力を合わせれば対応できる」とする。

 ただ、今回は乗客650人程度。マリンポートにはコロナ前、乗員・乗客6500人の大型船も寄港した。加えて昨年の新岸壁の整備により、2隻の同時接岸も可能になった。

 必要とされるバスが今後大幅に増えることが予想される中、修学旅行のピーク時期や国体のある10月は稼働台数がそもそも少ないという事情もある。下船した客に十分な移動手段を提供できるか、懸念は残る。

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 コロナ前に課題だったのが周辺道路の渋滞。観光地へ向かうバスが連なり、ほぼ動かないこともあった。マリンポート付近では渋滞緩和を目的とした交差点の改良などが進んだ。一方、新たな海上橋を建設して鴨池港区と結ぶ臨港道路は完成予定が2026年度中と、まだ先だ。

 クルーズ客が陸路でなく高速船やフェリーで移動できるよう、マリンポートには浮桟橋が19年に完成した。ただし、目的地となる本港区北ふ頭や鹿屋港の浮桟橋はまだ建設中。大型クルーズ船が着けば、今後も渋滞が起きる可能性は大きい。

 海上の二次交通拡充は、クルーズ船の経済効果を県内各地へ分散する意味もある。大隅にも呼び込もうと、鹿屋市は観光資源を生かした小型船ツアーの誘致に力を入れている。

 滞在時間の限られた海外のクルーズ客をいかにスムーズに受け入れ、経済効果につなげるか。期待と不安を抱えながら、いよいよ寄港が再開する。