「白紙撤回」に現実味…鹿児島市のサッカースタジアム構想、「オール鹿児島」にはほど遠く

 2023/03/11 09:00
鹿児島ユナイテッド選手らが乗ったバスを大旗を振りながら出迎えるサポーター=4日、鹿児島市の白波スタジアム
鹿児島ユナイテッド選手らが乗ったバスを大旗を振りながら出迎えるサポーター=4日、鹿児島市の白波スタジアム
 鹿児島市が鹿児島港本港区で検討する多機能複合型スタジアム構想。3カ所あった候補地は民間所有者が取り下げを求めて2カ所に減った。本命とされるドルフィンポート(DP)跡地は「断念」の可能性がささやかれ、残る住吉町15番街区は敷地拡張といった難題が立ちはだかる。2023年度当初予算案に新たな協議会設置に関する予算を計上したものの、議論は視界不良に。構想の白紙撤回も現実味を帯びてきた。

 「2候補地が無理となった場合の対応は」-。9日の市議会産業観光企業委員会。当初予算案に計上した新たな協議会設置について、委員からは厳しい現状認識に基づく質問が相次いだ。しかし市の担当者は「2カ所を含む本港区での立地を目指す」と繰り返し、議論はかみ合わない。

■DP跡「厳しい」

 市がスタジアムの需要予測調査と配置案を示してから4カ月。整備に向けた環境は様変わりした。民・国有地の浜町バス車庫は除外され、残ったのは県有地2カ所。

 市が経済波及効果などを基に優位とするDP跡への整備は隣地のウオーターフロントパークの一体活用が不可欠だが、県側は景観確保などを理由に保全する方向で議論を進める。下鶴隆央市長は1日の市議会本会議で「厳しい状況」と答弁せざる得なかった。

 この発言は瞬く間に県庁内を駆け巡った。塩田康一知事は取材に「大きく何かが変わるということはない。(市長は)断念するとも言っていない」と言葉を選んだ。しかし翌2日の県議会本会議では、DP跡への整備は「厳しい状況」と踏み込んだ。両トップが「厳しい」と共通認識を示したことで「DP跡地は困難」との見方が一気に広がる。

 残る住吉町15番街区だが、需要予測調査によれば、海側への敷地拡張が必要な上、維持管理・運営収支は毎年2200万円の赤字だ。鹿児島商工会議所はスタジアム以外の活用を提案。港湾関係者との協議も必要でハードルは高い。

 ただ市は現在の構想を白紙に戻す考えには否定的。よりどころは、県の本港区エリア利活用検討委員会での議論対象に県がスタジアムを残している点だ。10日の市議会委員会で有村浩明観光交流局長は「地権者(県)と協議は継続している」との認識を示し、引き続き本港区で検討する考えを明らかにした。

■県が計画凍結

 そもそもスタジアム整備計画は県のものだった。

 県は1990(平成2)年策定の県総合基本計画に球技スポーツの専門施設の整備を明記。5年後には当時の土屋佳照知事が「3万人程度の収容規模の施設を整備する」と表明した。

 ところが2001年、当時の須賀龍郎知事が財政難を理由に凍結する。中山町のふれあいスポーツランドに県立サッカー・ラグビー場は造ったが客席は1万にも満たない。

 スタジアム構想が宙ぶらりとなる中、16年10月、当時の森博幸市長が「オール鹿児島」による整備を市長選の公約に掲げ動き出す。白波スタジアム(与次郎2丁目)を多くの人が利用できるようにすることと、J3鹿児島ユナイテッドFC(鹿児島U)のホーム整備が主な理由だ。

 この考えを下鶴市長も引き継ぐ。ただ県の関与はほとんど見られず、「オール鹿児島」はほど遠い。

 鹿児島Uが現在手にしているJ1クラブライセンスは、スタジアム整備を前提にした“仮免許”だ。白紙に戻れば今後ライセンスが取得できない可能性もある。

 鹿児島Uの試合で大旗を振る森啓一朗さん(40)=鹿児島市=は「選手がどれだけ頑張っても昇格できなければ残念だ。県と市は協力してスタジアム整備に取り組んでほしい」と要望する。