家族を亡くした被災者が「1本の花」に救われたと涙した…鹿児島から東北へ、農家は12年間キクを贈り続ける

 2023/03/11 15:00
「花は心を伝える」と語る小浜健一さん
「花は心を伝える」と語る小浜健一さん
■被災地に花を贈り続ける生産者
 小浜 健一(おばま・けんいち)さん=鹿児島県曽於市

 「花は心を伝える」「好きな気持ちや感謝の心を運ぶ器」。スプレーギク生産者として花の力を哲学的に説く。

 2000年に曽於市で就農した。当初は多かった花の需要は墓じまいなどで徐々に減った。価格も下がり、今後も必要とされるか自信を持てないでいた。

 転機は12年前の東日本大震災だった。被災地では10日たっても遺体が置かれたままの体育館があった。仲間とともに彼岸用だった花を送ろうと、現地の卸業者に連絡すると「責任を持ってひつぎの前に届ける」と言ってくれた。物流が混乱する中、運送業者は「霊安用ならば」と緊急物資として運んでくれた。

 数日後、同封した名刺の番号に何本もの電話がかかってきた。家族を失った女性からは「何もしてあげられず苦しかった。やっと花を手向けられた」と泣きながら感謝を伝えられた。

 「あぁ、やっぱり人に花は必要だ」と確信した。避難所暮らしで余震も続く。明日のわが身さえおぼつかない状況でも、人は亡くなった大切な人を思い、花を手向けたいと考えるのだ。たった1本の花に多くの人が救われていた。復興を願い、今も被災地に贈り続ける。

 花の栽培で大切なのは「根っこ」だという。小中学生への普及活動では「見えないところが大切」「親や先祖を大切にしよう」と説き、人の根っこ作りに励む。曽於市大隅に妻、4人の子どもと暮らす。大隅弥五郎太鼓の中心メンバーとして地域の伝統行事を支える太鼓の達人でもある。53歳。

 あわせて読みたい記事