「どこの誰か、教えろ」。新型コロナ流行初期、感染者が出ると保健所には問い合わせが殺到した。感染防止とプライバシーは…保健士ははざまで苦悩した
2023/03/24 11:32

新型コロナウイルスの対応について打ち合わせする上栗美幸さん(左)と有村恵子さん=2月28日、鹿児島市保健所
デルタ株が猛威を振るう流行「第5波」。症状に苦しむ感染者やその家族から「入院させてほしい」との要望が相次いだ。コロナ病床は限られ、全員の希望には応えられない。もどかしさを抱えつつ、往診可能な医療機関を広げるなど「できる支援」を模索した。
保健師は、保健指導を通じて病気の予防や健康の維持に貢献する専門職だ。主幹の上栗さんは対策室の保健師約20人をまとめ、医療機関との調整などに従事。係長の有村さんは、症状に応じて入院の必要性を判断する「トリアージ」などに最前線で対応してきた。
3年前に初めて感染者が確認された新型コロナは、変異株の出現と感染拡大を繰り返した。ウイルスの性質が変化し、予測がつかないような流行の波が幾度となく到来。「対策を考えても毎回想定を上回る。まさに未知の感染症だった」
20年7月、県内初のクラスターが天文館の接待を伴う飲食店で起きた。風評被害などが予想されたため、「街を守り抜く」との思いで何度も同業種の関係者を集めて感染防止策を説明した。「何が起きているのか、正確な情報を伝えて誹謗(ひぼう)中傷も避けたかった」
感染者が少なかったこの頃、「どこの誰が感染したのか」といった問い合わせが保健所に殺到。個人情報の開示を求める市民が窓口を訪れ、警察が駆け付けることもあった。感染防止に役立てるための情報公開と、個人のプライバシー保護とのはざまで苦悩した。
感染者の行動歴調査や接触者の把握、自宅待機者の健康観察…。保健所が担う業務は多岐にわたる。感染症対応の中心だった結核の感染者が同市で年間70人程度なのに対し、新型コロナはオミクロン株が主流になって1日最大2200人に上った。毎日の健康観察が難しくなるなど作業は追いつかなくなった。
「第6波」のさなかの22年4月まで、感染者の氏名や住所、持病の有無などのデータは全て「紙」で管理。業務が滞る一因になっていた。他部署の協力を得て、独自の「感染者情報管理システム」を構築。デジタル化による業務の効率化を図り負担は大きく減った。
新型コロナとの闘いでは、09年の新型インフルエンザ流行の経験は生きなかった。対応に役立つような資料は保健所に見当たらず、当時を知る保健師も既に退職していた。手探りで態勢を整えるしかなかった。
現在、新型コロナ対応の経過や課題をまとめたマニュアル作成を進める。10年後もしくはその先、訪れるであろう感染症危機は今回のように想定を超えるものになるかもしれない。それでも2人は強く思う。「この経験は必ず引き継いでいかないといけない」
鹿児島県内で新型コロナウイルスの感染者が確認されて26日で3年。かつてない状況の連続に人々は翻弄(ほんろう)され、心は揺れ動いた。保健所、高齢者施設、火葬場…。さまざまな場所や人を追った。
(連載「かごしまコロナ 揺れた3年」より)
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