「ついのすみか」はコロナで一変。感染した入所者に寄り添えず、亡くなった後に体を拭くこともできなかった。介護現場は「5類」引き下げ後も「命を預かっている。警戒緩めない」

 2023/03/25 11:04
入所者の食事を介助する中園加代さん。介護現場の緊張は続いている=さつま町の特別養護老人ホーム「さつま園」
入所者の食事を介助する中園加代さん。介護現場の緊張は続いている=さつま町の特別養護老人ホーム「さつま園」
 気付かない間に広がった新型コロナウイルス感染は、「ついのすみか」の穏やかな生活を一変させた。鹿児島県内が流行「第8波」に見舞われた1月。70人が入所する特別養護老人ホーム「さつま園」(さつま町)は利用者15人が感染し、介護主任の中園加代さん(50)は慣れない防護服姿で介護していた。

 ホームの看護師と連携し酸素濃度や体温をこまめに測り、入所者には極力部屋から出ないようお願いした。職員の感染も相次ぐ中、提供するサービスや人繰りを調整した。介護は密着が避けられず、感染リスクをゼロにするのは難しい。自宅には戻らず、ホテルに寝泊まりする日が続いた。

 入所者の1人は体力が衰え、徐々に食事が取れなくなり息を引き取った。呼吸が荒くなっても感染のため満足に寄り添えず、亡くなった後に体を拭くこともできなかった。「これがコロナの怖さなのかと精神的なショックは大きかった」

 この3年、「自分たちが感染を持ち込んではいけない」と神経をとがらせてきた。買い物は混雑する時間帯を避け、飲み会や旅行は行っていない。職場でも職員同士の接触を減らすため、出入り口や動線を分けている。休憩室を同時に利用できるのは2人まで。昼食は今も自分の車の中で済ませる職員が多い。

 政府は5月8日、新型コロナの感染症法上の位置付けを「5類」へ引き下げる。「命を預かっている以上警戒は緩められない」。介護現場と社会とのコロナに対する危機意識の差は広がるのではないかと不安がある。「施設はあくまで生活の場。できることは限られる」。重症化リスクの高い人を確実に医療へつなぐ仕組みがほしいと望む。

 県内の高齢者施設は、流行の波が来るたびに集団感染が頻発し、死者の急増につながった。オミクロン株が主流になった昨年以降は医療逼迫(ひっぱく)で施設内での療養が基本となり、今年2月末までに141人が福祉施設で療養中に亡くなった。多くの施設は今も窓越しなどに面会を制限している。

 「高齢者の重症化リスクはもちろん高い。でも家族と自由に会えないことを『コロナ下だから仕方ない』で終わらせていいのか」。住宅型有料老人ホーム「アルファリビング鹿児島上之園」(鹿児島市)の笹川大志施設長(43)は感染を防ぐ苦渋の措置とはいえ、ずっと葛藤を抱えてきた。

 昨年11月、「集団感染も経験し、対応できるノウハウはある」と県内の同系列2施設と同時に面会制限を緩和。3人までなら入所者の個室で自由に会うことができ、外出や外泊も再開した。入所者40人の平均年齢は約90歳。感染を恐れ、不安視する家族には面会の意義を丁寧に説いた。

 施設内で大規模な感染が起きない限り、再び制限をかけるつもりはない。会いに来た家族の顔を見ると目にぱっと光がともる入所者もいる。「心許せる人と触れ合える時間は人生に欠かせないもの。その人の生きる力になる」と改めて感じている。

(連載「かごしまコロナ 揺れた3年」より)