「死んだのが信じられんのです」。コロナで妻を亡くした遺族の言葉が頭を離れない。火葬場への立ち入りや収骨には人数制限。十分な別れの時間を提供できず、葬儀の現場は苦悩が続いた
2023/03/26 11:24

新型コロナウイルスに感染して亡くなった人の火葬を振り返る50代男性=鹿児島県内の火葬場
県内で感染者が初めて亡くなったのは2020年7月だった。国が同月示した葬儀や火葬の指針に沿って職場の対応は決まった。
火葬炉前の別れや収骨に立ち会える遺族側の人数は5人まで。受け入れは一般の火葬を終えた夕方以降に限られた。白い防護服姿の職員が1組ずつ対応し、終えると徹底した消毒を繰り返す。流行のたびに死者は増え、業務は深夜に及ぶこともあった。
遺体は納体袋に入り、ひつぎはテープで目張りされて運ばれてきた。葬儀が難しいどころか、最後に顔を見ることさえかなわない。それなのに取り乱す遺族はなく、火葬炉にひつぎが入っていく光景をただぼんやりと見つめていた。「あっという間の出来事に感情が追いつかず、現実として受け止められていないように見えた」
葬儀社を通じ、立ち会い人数は限られていると伝えても訪れる人は多かった。「せめて見送りだけでもできませんか」。感染対策とはいえ、最後の願いを断るのはつらかった。ひつぎが炉に入るのに合わせ、建物の外で静かに手を合わせる人の姿は絶えなかった。
23年1月、国は納体袋を不要とするなど制限を大きく緩和する改正指針を公表。これに伴い、火葬の時間帯や人数を制限せず、一般と同じように受け入れるようになった。県内で1月末までに亡くなった感染者は811人に上る。多くの遺族は十分な別れができなかったとみられる。
「姿は見えんのに、母ちゃんが死んだのがまだ信じられんのです」。県内の葬儀社で働く男性(47)は、苦しみに満ちた遺族の言葉が頭を離れない。長年連れ添った妻を亡くしたにもかかわらず、火葬場への立ち入りや収骨さえできず、男性が駐車場で骨つぼを手渡した遺族だった。
この仕事に就いて20年余り。「人生を締めくくる儀式を取り仕切る責任と誇り」を持って働いてきた。だが感染した人の葬儀は遺族が望んでも全て断った。「別れの時間を提供するという役割を果たせない。何のために働いているんだろう」。悩む日は続いた。
世間の感染対策は少しずつ緩和されても、業務中は常に防護服を着用した。夏場は手袋の指先に汗がたまり、顔のゴーグルは湿気で曇った。「亡くなった人の尊厳を守れているのか」という疑問がつきまとった。
「遺族への過剰な対応」は終わり、感染対策をしながら葬儀ができる日は戻ってきた。ひつぎを囲みながら泣き笑いする家族の姿を見て思う。「満足な別れは、大事な人を失った人が悲しみから立ち上がるきっかけになる」。残された人の生きる力を後押しする責任の重さをかみしめている。
(連載「かごしまコロナ 揺れた3年」より)
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