外国人技能実習廃止となれば…「地方の労働力が奪われる」 受け入れ側、都市部への転籍に強い懸念

 2023/04/15 11:28
船体補修作業の休憩中に談笑するベトナム人技能実習生=13日、鹿児島市谷山港2丁目
船体補修作業の休憩中に談笑するベトナム人技能実習生=13日、鹿児島市谷山港2丁目
 外国人労働者受け入れの在り方を見直している政府の有識者会議が技能実習制度を廃止し、新たな制度を創設する中間報告書のたたき台を示した。従来の「人材育成」という目的に「人材確保」を加え労働力として明記する内容。鹿児島県内の関係者は「実態に沿う」と理解の声を上げる一方、転籍しやすい仕組みには「地方から労働力を奪う」と懸念を強めた。

 「政府は何をしたいのか分からない」と話すのは、主に農家に実習生を紹介する監理団体「エーアンドエフ事業協同組合」(志布志市)の江田敦郎代表理事(66)。問題視するのは転籍が容易になることだ。現行制度下でも転籍が認められる特定技能に移行した途端、賃金の高い都市部へ流れる事例を見てきた。

 江田代表は「国の農政方針に沿って農家が規模を拡大しようにも、いつ辞められるか分からなければ頭数に入れづらい。最も人が必要な地方の実態が分かっていない」と憤った。

 受け入れ先も懸念は同じだ。米盛建設(鹿児島市)の東江雄幸総務部参与(65)は「実習生は円安やレートに敏感で家族への送金時期にも気を使っている」と、賃金だけの比較になると地方は分が悪いと指摘する。定着に向けて職場と住居の環境整備や相談態勢づくりに取り組んでおり「できることを続けて信頼を築くしかない」と話す。

 見直しの背景には、実習先の劣悪な環境や賃金不払いなど受け入れ企業の問題が指摘される。監理団体「鹿児島国際交流協同組合」(鹿児島市)の村岡英喜事務局長(74)は「労務管理は日本人より厳しい。一部の悪徳業者を取り締まるのが先だ」と反論する。

 受け入れ企業はビザ申請や日本語教育、渡航費を負担しているとして実習生を安価に使っているという見方も否定する。「3年間働いてもらう初期費用として理解を求めているのに、数カ月で辞められたらたまったものじゃない。引き抜く都会は丸もうけだ」と一定の転籍制限の必要性を訴えた。

 労働力と明記する部分には「実態に合った形になる」と理解する声もある。運営する特別養護老人ホームで介護職を受け入れる社会福祉法人以和貴会の西丸晴彦理事長(51)は、介護事業所に課せられる人員配置基準を念頭に「これまでは半年しなければ人員としてカウントできず、経営体力の弱い事業所は受け入れをためらっていた。最初から労働力であれば手を挙げやすい」と歓迎した。

 外国人労働者を巡っては、都市と地方という地域間の労働力の取り合いに加え、韓国やオーストラリアなど国家間での獲得競争も激化している。見直しは、国内外で人権侵害などと批判される制度を放置できないという国の焦りもにじむ。

 特定技能登録支援機関「ネクステージ」(鹿児島市)の領家隆雄専務取締役(44)は「日本が外国人労働者を選ぶ立場から、選ばれる側に逆転した」と指摘。政府は移民政策に否定的だが「日本人労働者と同等の権利を与える代わりに義務も果たしてもらう。それが双方にとって良い関係につながるのでは」と提案した。

■元実習生「語学力の支援を」

 外国人労働者受け入れの在り方を見直している政府の有識者会議の中間報告書のたたき台は、労働力としての位置づけやミスマッチからの失踪など、技能実習生制度のさまざまな問題点を改善して人材確保を目指す。実習生を経験した外国人在留者は、体験を通じて「問題解決には語学力の支援が重要」と指摘する。

 「私につかまってください」「痛いところはないですか」。鹿屋市串良の特別養護老人ホーム以和貴苑。ベトナム人のグエン・ティ・トゥ・ガンさん(29)が、ベッドに横たわる高齢者の肩や腰を支えながら抱き上げた。

 ガンさんは2020年2月に技能実習生として来日。現在は特定技能で在留し、この春に介護福祉士国家試験を突破した。当初は日常会話程度の語学力だったが、今は新聞記事を読みこなせるほどになった。

 ガンさんは「介護分野は一定の語学力がないと受け入れてもらえない上、人と毎日接するので上達しやすい。他分野は日本語を話せなくても来日できるので、仕事中に会話がなければ、ほとんど話せないままの人も少なくない」と明かす。

 県外の建築会社で実習していたベトナム人の知人は失踪したという。「実習先で不利益があっても、言葉が通じなければ意思疎通が図れない。長続きしない背景には語学力不足がある」と強調。「語学面の支援が不十分であれば、新制度になったとしても失踪など根本的な問題は解決しないのではないか」と指摘した。

 その上で「給料面など待遇を見ると、韓国やオーストラリアの方が好条件になっている。円安もあり、現状では日本が選ばれにくくなるだろう」と予想した。

 ガンさんを受け入れた社会福祉法人以和貴会の西丸晴彦理事長(51)は、国際的な獲得競争の激化を受け「国や県は語学習得を支援したり、受け入れ事業所に助成金を出したりして待遇引き上げ策を考えてほしい」と求めた。

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