人一倍繊細な子たちが「家みたいに安心できる」 母親2人がつくったフリースクール、開校2年で利用者50倍増

 2023/04/30 15:00
シアタールームで動画鑑賞をしたりタブレット学習をしたりする子どもたち=鹿児島市の鴨池校
シアタールームで動画鑑賞をしたりタブレット学習をしたりする子どもたち=鹿児島市の鴨池校
 人一倍繊細でにぎやかな場所や集団行動が苦手な「ハイリー・センシティブ・チャイルド(HSC)」向けの無料フリースクール「やさしいハリネズミの楽校」の利用者が急増している。開校から2年で250人を超え、モデルハウスや旧老人ホームを企業から無償で借りて3校に拡大。一方で、運営はボランティア頼みで、活動費や人員不足が課題に挙がる。

 旧老人ホームを無償で借り、4月に開校した「鴨池校」(鹿児島市東郡元町)はランニングマシンが設置された運動室や保護者の相談室など10部屋を備える。

 1日の定員は15人。共有スペースで動画を見たり、個室で絵を描いたりと各自が居心地の良い場所で自由に過ごす。小学3年男児は「家みたいな安心感がある。自分でやることを決められて友達ができるのもうれしい」と笑顔を浮かべた。

 集団が苦手で教室に行けず、特別支援学級にも該当しないHSCの居場所を作ろうと、2021年5月、当事者の母親2人がモデルハウスを間借りして同市西谷山3丁目に開校した「ハリネズミ」の3校目。当時5人だった利用者は250人に増え、ライン相談も800人を超えた。遠方から通う子も少なくなく、増設を望む声が高まっていた。

 そこで、不登校になりやすい「起立性調節障害(OD)」や新型コロナウイルス後遺症の治療に取り組む厚地脳神経外科が施設の貸し出しを提案。OD治療用の酸素カプセルも寄贈した。溝格総務法務部長は「施設の再利用はSDGsにもなる。社会との接点になるような居場所が増え、少しでも子どもたちの力になれれば」と語る。

 課題は運営費や人員の不足だ。鹿児島市の2校と川内校(薩摩川内市)を運営するスタッフは教員や保育士の免許を持つボランティアの3人のみ。テレビや書籍、タブレットなど必要な備品はスタッフの自己負担や寄付で賄っている。

 鹿児島県教委によると、21年度の県内の公立小中高校生の不登校は前年度比699人増の3688人で、4年連続最多を更新。フリースクールなどの県内施設に通う公立校の児童生徒は22年9月末時点で171人と5年前より3倍近く増加している。

 上川知子代表(41)は「入会費や授業料が負担となりフリースクールを選べない家庭は多く、無償にこだわっている。ただ、規模が大きくなるほど光熱費など費用はかさむ」と明かす。

 5月下旬には放課後等デイサービス施設を使った姶良校を開校予定。ホームページなどで運営資金や学習道具の寄付、スタッフ(講習や面接あり)を募っている。上川代表は「企業の協力で場所を確保できているが、綱渡りの運営は続いている。支援の輪が広がってほしい」と訴えた。