子育て世帯の転入で人口増→税収増 好循環つくった兵庫・明石市の所得制限なし「五つの無料化」とは

 2023/05/06 11:48
遊具やおもちゃのそろう室内で過ごす親子=4月下旬、兵庫県明石市大明石町1丁目のあかし子育て支援センター
遊具やおもちゃのそろう室内で過ごす親子=4月下旬、兵庫県明石市大明石町1丁目のあかし子育て支援センター
 南日本新聞(鹿児島市)など九州4紙が3月に実施した子育てに関する合同アンケートで、全国の市町村で「施策が充実している」との回答が最多だった兵庫県明石市。「五つの無料化」を基盤に、出生率や人口増といった好循環につなげている。全国から視察が相次ぐ人口約30万人の中核市の取り組みに迫った。

 10年前の2013年。1期目だった泉房穂前市長=今年4月末退任=が、中学3年までの子ども医療費を無料化したのを皮切りに、次々と子育て施策を充実させていった。

 「五つの無料化」は(1)子ども医療費(現在は高校3年まで)(2)おむつ(満1歳まで)(3)第2子以降の保育料(副食費を含む)(4)中学校の給食費(5)文化博物館など公共施設4カ所の入場料-を指す。妊娠・出産期から就学後まで、バランスを取った施策展開で、所得制限は設けていない。「すべての子どもたちをまちのみんなで本気で応援する」方針を掲げる。

 23年度からは市独自で児童手当も拡充予定。国の制度では中学生までだが、世帯主収入が1200万円を越えると対象外。市は18歳までに広げ、所得制限も設けず、子ども1人当たり月額5000円を支給する。

 こども局長などを務めた佐野洋子副市長は「明石だから、という特性や地理、歴史的な要素はない。何にお金を使っていくかという決断が大きい」と強調する。予算額の大きかった土木費を21年度までの約10年間で半減させ、高齢化などで居住密度が下がった市営住宅の集約化で費用を捻出。正職員数を減らしつつ、全国公募で福祉の専門職を任用して業務の質を維持しながら、総人件費を年10億円削減した。

 子育て施策の充実で子育て世代と税収が増え、さらに次の施策を打てる好循環も大きい。

 同市の人口は1990年代後半から減少傾向が続き、2010年以降は約29万人と横ばい。その後は25~39歳の子育て世代を中心に伸び続け、現在は約30万人。それに伴い、市民税など主要な税収が12年度から30億円ほど増えたという。佐野副市長は「人口増などの効果もあり、もっとやろうという機運が市全体で高まっている」と話した。

■市民の受け止め

 「子育てしやすい町」として注目を集める兵庫県明石市は、2013年から22年まで10年続けて人口が増加した。けん引するのは0~4歳の子育てをする25~34歳の世帯。多様で継続的な支援策が転居を後押ししている。

 4月下旬、明石駅前の複合ビルにある「あかし子育て支援センター」。広々とした室内に未就学児向けの遊具や絵本が並ぶ。十数組の親子が訪れ、思い思いにふれあいを楽しんでいた。

 同様のセンターは市内に5カ所あり、昨年度の利用者は計約13万人。中でも「あかし」は、ビル内に大型遊具がそろう別の遊び場もあり、約8万人と利用が集中する。

 2歳と3歳の子どもがいて週2回程度、同センターを利用する主婦、江谷由香里さん(32)は、医療費無料化を評価している。「1人目のときは分からないことばかりで、体調が悪いときはすぐ病院に行っていた。費用面の心配をせず、診てもらえるのは助かる」

 1~6歳の3人を育てる会社員、水越裕貴さん(32)は、20年に始まったおむつ定期便を末っ子が利用した。3カ月から満1歳になるまでの10カ月、紙おむつや離乳食など3000円相当の用品を毎月届けてくれるサービスだ。「子育て経験のある配達員がいつもいろいろ気にかけてくれると、妻が喜んでいた」と話す。

 公務員、衣笠彩乃さん(36)は、実家があり、子育て施策が充実しているとして、約6年前に隣の加古川市から移り住んだ。子どもは3~8歳の3人おり、1人あたり月額約4万円だった保育料の無料化を歓迎する。「一時的な支援ではなく、各家庭に共通して継続的にかかる費用を援助してくれるのは大きい」と話した。

 あわせて読みたい記事