中国海軍の領海侵入相次ぐトカラ海峡 「庭先を荒らされている気持ち」 担い手不足に悩む漁師の苦悩
2023/05/21 21:10

漁場を案内する瀬山哲矢さん。周辺海域では中国艦艇の侵入が相次ぐ=4月27日、屋久島沖
島の周辺は天然礁や黒潮の影響を受けた県内有数の漁場。この恵みの海で2021年11月以降、中国海軍艦艇の領海侵入が相次いでいる。防衛省の発表によると、今年2月までに7回。全て測量艦だ。屋久島と十島村・口之島の間の「トカラ海峡」を夜間帯に通過するケースが目立つ。
「庭先を荒らされているような気持ち」と瀬山さんは不快感を隠さない。屋久島漁協によると、所属漁船のうち約15隻が周辺海域を漁場にしている。鮫島洋一参事(57)は「艦艇の目撃情報がなく実感はないが、これだけ増えれば安心して漁ができない」と戸惑う。
■□■
国連海洋法条約は、軍艦を含む全ての外国船に「無害通航権」を認めている。沿岸国の平和や秩序、安全を害さない限り、沿岸国の領海を通航できるというものだ。ただ、調査や測量などの活動は無害通航には当たらない。
海上自衛隊潜水艦隊司令官を務めた日本安全保障戦略研究所の矢野一樹上席研究員(67)は「中国艦艇の航跡を見ると、領海内で測量活動をしているとは考えにくい」と分析する。「屋久島を通過した先に目標の海域があるはず。そこの測量を急いでいる」とみる。
中国にとってトカラ海峡は、海軍基地のある寧波(浙江省)と太平洋を結ぶ最短航路の一つ。台湾有事などの際に潜水艦が通過する可能性がある。矢野氏は「緊張度は高まっており、できる限りデータを取っておきたいのだろう」との見方を示す。
■□■
海に不穏な空気が漂う中、漁業者は漁獲量の減少など厳しい環境に直面している。多くの関係者は「魚が捕れなくなった」「担い手がいない」と口をそろえる。目に見えない「緊迫」は窮状に追い打ちをかける。
農林水産省の漁業センサスによると、県内の漁業就業者数は6116人(18年)で、10年前に比べて2300人減った。各地で高齢化に拍車がかかり、屋久島漁協では正組合員のうち60歳以上が約6割を占めている。
30年以上前から一本釣りをしている漁師の男性(68)=同町安房=は「出漁日数を1.5倍に増やしても漁獲量は8割程度。生活は苦しい」と嘆く。
北海道大学大学院の佐々木貴文准教授(水産経済学)は「食料も重要な安全保障だ。漁業は公共性が高いが、厳しさが増している。どう守り、維持していくかも考えるべきだ」と指摘する。
(連載「転換期の空気 安保激変@かごしま」2回目より)
あわせて読みたい記事
-
みんな大好き「鶏飯」をタニタも認める健康レシピに…鹿児島純心大、郷土料理コンで2年連続上位入賞12月6日 15:01
-
えびの高原・硫黄山 噴火警戒レベル1に引き下げ 7月以来、鹿児島地方気象台12月6日 12:08
-
理想の知事像は? 2期目目指す塩田知事「責任とる覚悟、やり抜く行動力を持つ」 県議会12月6日 12:00
-
ふるさと納税返礼品偽装 委託料相当額1.8億円 5回分割で返還へ 熊本の食品会社12月6日 11:55
-
〈ふるさと逸品〉大きな栗一個 まるごと大判焼きに12月6日 10:00
-
100周年記念で鹿児島高校の生徒が考えた 南九州ファミリーマートからコラボ3商品販売12月6日 09:00
-
川内原発運転延長 市議会特別委の賛成に市民は「地元経済に貢献」「住民の不安無視」12月6日 08:30
-
【解説・薩摩川内市議会が川内原発運転延長に「賛成」】市・県の判断へ地ならし進む12月6日 08:00
-
防衛力強化へ、政府が全国38空港・港の整備・機能拡充を検討 鹿児島県内は2空港6港が対象に12月6日 07:40
-
離島住民は車検が大変…鹿児島県が車両の送料支援を検討 来年度から実施目指す12月6日 07:30
-
屋久島沖米オスプレイ墜落から1週間 行き交うヘリ、軍車両…島の日常一変 行方不明者の捜索続く12月6日 07:08