漁船火災 激しい熱風、14人海へ 惨事救った「海の消防団」 連絡受けた7隻、海保と協力し全員救助 県内43拠点、定期的に訓練

 2023/05/26 08:01
船体に火が上がる未来丸=24日、薩摩川内市下甑町長浜港沖(下野尚登さん提供)
船体に火が上がる未来丸=24日、薩摩川内市下甑町長浜港沖(下野尚登さん提供)
 24日に鹿児島県薩摩川内市の下甑島沖で発生した瀬渡し船「未来丸」(約10トン)の火災で、海に飛び込んだ乗客乗員14人は駆け付けた7隻の漁船に約20分後、引き上げられ、けが人はいなかった。救助に加わった漁師の多くは「海の消防団」と呼ばれる日本水難救済会に所属するボランティア救助員。第10管区海上保安本部は「民間との連携が迅速な救助につながった」とみる。

 午後1時40分ごろ、同市下甑町手打の磯場から釣り客を乗せて阿久根港に帰る途中、エンジントラブルが発生した。機関室から黒煙が上がり、間もなく出火。乗客が118番した。中道則正船長(66)が船首に乗客を誘導したが、熱風が激しくなり、海に飛び込むよう指示した。全員が救命胴衣を着けており、クーラーボックスなどを浮輪代わりに救助を待った。「落ち着いて対応できたが、急な火災には驚いた」と振り返る。

 「早く向かわなければ」。火災現場から6キロの長浜港で漁網の手入れをしていた漁師の下野尚登さん(68)は「船が燃えている」と漁師仲間から連絡を受け、すぐに所有する漁船で海に出た。現場では瀬渡し船全体に火が広がっており、約50メートルほど離れた海上で14人が浮いていた。10管からの要請で急行した仲間の漁船と協力し、全員を救助。長浜港に搬送し、消防に引き渡した。下野さんは「何かあったら互いに連絡して救助に行く意識があるから早く対応できた」と話す。

 「海の消防団」では、漂流者の救助や搬送の方法など、定期的に海難救助訓練を実施しており、沿岸で船や人が遭難した際は、海保の要請を受けて救助や捜索に当たる。救助員約6300人の活動拠点となる救難所は、下甑、鹿島を含め県内に43カ所ある。

 2022年までの5年間で、13隻が県内の海上で火災を起こしている。22年3月に種子島から約186キロ沖で発生した船舶火災では1人死亡、4人が行方不明。無事救助された事案でもけがや低体温症を伴うケースが多く、「けがもなく助かるのは珍しい」(10管関係者)という。

 25日あった10管の定例会見で、坂巻健太本部長は「7隻の漁船や消火に当たったフェリーに感謝したい」と述べた。一方で、出航前の点検や天候確認などの徹底を呼びかけ、「民間の力も借りて、関係機関と連携した対応を続けていく」と語った。