稼げない、労働環境が悪い…運転手不足のタクシー業界、イメージ払しょくへ待遇改善に躍起

 2023/06/04 08:33
タクシー運転手の仕事のコツについて、林真寛さん(右)からアドバイスを受ける米山恵美さん=5月30日、鹿児島市与次郎1丁目の旭交通
タクシー運転手の仕事のコツについて、林真寛さん(右)からアドバイスを受ける米山恵美さん=5月30日、鹿児島市与次郎1丁目の旭交通
 タクシーに限らず、バスやトラックと陸運業全体が運転手不足にあえぐ中、鹿児島県内のタクシー事業者は、従業員の待遇改善や業務効率化などに取り組む。「稼げない」「労働環境が悪い」といった業界のイメージ払拭に躍起だ。

 いちき串木野市の串木野自動車教習所で5月26日、鶴丸交通(鹿児島市)の田尻義昴さん(20)が、乗務に必要な第2種運転免許を取得するための特例教習を受けていた。取得すれば同社最年少の運転手。「早く独り立ちして活躍したい」と声を弾ませる。

 2種免許の受験は昨年、特例教習を受けることで年齢などの条件が緩和された。同社は取得費を全額負担。加えて、新人運転手に月給20万円を半年保証している。「業界が初めてでも安心して挑戦できる」と立神剛総務課長は説明する。

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 多様な働き方を用意して女性運転手に活路を見いだし、異業種からの人材受け入れに積極的な事業者も多い。

 旭交通鹿児島支社(鹿児島市)では6人の女性運転手が働く。米山恵美さん(34)は「家庭優先」の求人チラシを見て入社した。小学生の長女を学校に送り出してから下校するまでの7時間半ハンドルを握る。「生活スタイルに合わせて融通が利くのが魅力」と働き方に満足している。

 同僚で運転手歴7年の林真寛さん(66)は元銀行員。数字とにらめっこだった生活は一変、客との会話が生きがいになった。「楽しい上に『ありがとう』と何度も言ってもらえる。これこそタクシードライバーの醍醐味(だいごみ)です」と満面の笑みを見せる。

 全国ハイヤー・タクシー連合会のデータでは、2022年の全国のタクシー運転手賃金は年361万円余り。コロナ禍の前年より80万円以上増えたが、それでも全産業平均の約496万円には及ばない。「タクシーは稼げない」という根拠にされている。

 県タクシー協会に45年勤務する山口俊則専務理事は「データは時短勤務など多様な働き方を考慮していない。今の給与はかつてないほど高水準。バブル期を超えている」と反論する。

 運転手不足でタクシー1台の1日の売り上げ平均は2万5000円と、コロナ前平均の1万7000円より8000円増えた。運転手の取り分は売り上げの半分が相場。今はコロナ前より1日4000円増えた。月20日勤務なら8万円増。売り上げが月100万円以上あり50万円を超す運転手も珍しくない。

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 デジタル化による効率化も進む。鹿児島市の10事業者(計約200台)からなる「カゴシマTAXIグループ」は、4月から共通配車アプリの運用を始めた。全車両に衛星利用測位システム(GPS)や配車システムが入るタブレットを導入し一括管理する。

 乗客がアプリを利用して待っている場所と行き先を入力すると一番近くの車に通知が届く。無駄のない配車を可能にし、配車係の負担も減る。同グループの松本明本部長は「客側も迎えのタクシーの現在位置が分かるなど便利」と利用を呼びかける。

 求人の間口拡大や効率化と運転手確保を図るタクシー業界。協会の山口専務理事は、過疎化やバス路線の縮小で「通院や買い物など生活の足を守る最後のとりではタクシー」と力を込める。「運転手不足をどうにか解消して、持続可能な事業にしなければならない」と話した。

■連載「タクシーがいない かごしま」〈下〉