濁流は胸に達した。死を覚悟した2時間後…大雨は引いた。妻は見ず知らずの作業員にあんパンを差し出した。「半分ずつ食べませんか」。胸が熱くなった
2023/07/14 08:05

8・6水害を振り返る福村宇吉さん(右)と妻のセツ子さん=13日、鹿児島市小山田町
川は既にあふれ、自宅前の道路は激流と化していた。降り方がいつもと違う-。妻のセツ子さん(84)に「逃げるぞ」と叫んだ。先祖の位牌(いはい)をビニール袋に入れ、裏のガラス戸から塀に乗り移った。
水に漬かりながら数十メートル先にある国道3号沿いのガソリンスタンドにたどり着いた。事務所には既に大勢の人が避難していた。入り口を開けると室内に水が流れ込んでしまうため、外で雨が弱まるのを待った。
水かさは増し、胸付近まで達してきた。車に乗った作業員2人が同じように取り残されていた。首より上に水が上がってきたら-。最悪の事態を覚悟した。
セツ子さんの手を握り、「大丈夫か」と尋ねるのが精いっぱいだった。25年の結婚生活、理容師として何とか頑張ってきたこと、社会人となった娘2人。暗闇に包まれた水の中で、家族と共に歩んできた人生が頭をよぎった。
2時間後、ようやく水が引き始めた。「助かった」。安堵(あんど)していると、セツ子さんはビニール袋を触っていた。取り出したのはあんパン2個。「半分ずつ食べませんか」と1個を作業員たちに手渡した。残り1個を夫婦で分け合った。おいしかった。どんな時も周囲を気遣う妻の振る舞いに胸が熱くなった。
理容店や2年前に建てたばかりの自宅にも泥水が押し寄せていた。南薩などの同業者約10人が後片付けの手伝いに駆けつけてくれた。ありがたくて涙が出た。
当時の営業日報の天気欄には「大大大大雨」の文字が残る。「今も家族が元気に暮らしていけるのは、あの日を乗り越えたから」
水害発生時に外に出て移動することは大きな危険を伴うことを痛感した。命を守るには状況に応じた早めの判断が大切だと肝に銘じている。
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