台風一過の穏やかな夜 眠りにつく集落を土石流が切り裂いた…「異変に早く気が付けば」。住家11棟全壊、死者9人。明暗は紙一重だった。
2023/08/28 18:07

1993年9月4日、土石流が集落を襲い、9人が犠牲になった鹿児島県南九州市川辺町小野の災害現場
この日午後4時ごろ、薩摩半島南部に戦後最大級と言われた台風13号が上陸し県本土を縦断した。集落の中央部に住む上之園和美さん(86)によると、台風通過後の夜は穏やかで、停電していたこともあって、みな早めに床に就いた。
ウトウトし始めた10時ごろ、家の外で水の音がして、しばらくすると女性の悲鳴が聞こえた。起き出すと玄関は水浸し。妻と母を伴って暗闇を避難した。
■明暗まさに紙一重
翌朝、変わり果てた集落を目にした。自宅は床下浸水で済んだが、辺りは流された家の残骸や倒木で埋め尽くされていた。住家11棟全壊、死者9人、重軽傷者19人の大惨事だった。
流されながら道路脇の手すりをつかんで助かった人がいる一方で、避難先から戻ったところを家ごと遭難した人もいる。明暗はまさに紙一重だった。
土石が流れ出た沢は廃線になった鉄道の軌道敷跡の土手が横切っていた。排水溝が詰まり、土手が押し流されたらしい。上之園さんが直後に見に行くと、上流側に大量に水がたまっていた跡があったという。
「昔はたきぎ取りなどでよく山に入っていた。異変に気付けば警戒しただろうが、当時はめったに人が入らなかった」と悔やむ。
■惨事の記憶を継ぐ
今は土石流発生現場に砂防ダムが造られ、下流の水路も整備された。被災した宅地はかさ上げされ、新築された家も目に付く。
自治会長の中薗純一さん(71)によると、現在は93世帯195人が暮らす。高齢化による人口減はあるものの、被災して転出した人はほとんどいない。幹線道路沿いで交通の便がよく、若い世代の転入者もいる。「住みよさの証しだろう。ただ、災害の記憶が風化していないか気になる」という。
小野自治会は10班に分かれ、各班2人の避難誘導員が緊急時に対応する。毎年、梅雨時期には防災講座を開く。中薗さんは「当時と比べスマホなどで個々人が詳しい情報を得ることができるようになった。先日の台風6号では早めにホテルに避難する人もいた。自主的に判断して行動することが大事だ」と強調する。
砂防ダム近くの集落を見下ろす場所に、住民の要望で造られた慰霊碑公園がある。碑文には「呼び交いて 祈る願いも空しくて 土砂に呑まれし 御霊安かれ」と刻まれ惨事の記憶を伝える。思いを引き継ぐため、節目の9月3日は小野公民館で慰霊の追悼法要を開く。
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