父と妹を襲った土砂崩れ「つかんだ手を離してしまった」 父は悔やんだが、病弱な妹自ら「離れた」のでは…30年後の今はそう思う
2023/09/13 17:28

妹を失った8・6水害を振り返る松尾春美さん=9日、鹿児島市皆与志町
裏山で崩れた大量の土砂は1階の壁を突き破り、庭から外の道路まで流れ込んでいた。部屋に残されていたのは仏壇のみ。100年に1度と言われた大雨の怖さを思い知った。
同居していたかつ子さんと父の勝美さん(享年86歳)が土砂崩れに巻き込まれた。勝美さんは家屋の一部に足を挟まれ動けなくなったが、雨が上がった夜に消防関係者や住民らに救助された。
かつ子さんは裏山に面した部屋にいたため、土砂の直撃を受けた。翌7日、敷地内のコンクリート塀付近から遺体で見つかった。
幼い時ポリオ(小児まひ)にかかり、ほとんどを自宅で過ごしていた。松尾さんは「あんちゃん」と呼ばれていた。仕事から帰ると、気持ちよさそうに鼻歌を口ずさむ妹の笑顔が忘れられない。
避難先で勝美さんから当時の状況を聞かされた。「バリバリと大きな音を立てて土砂が襲ってきた。かつ子の手を1回はつかんだが、2度目の土砂崩れで手を離してしまった」と。
通夜は集落の公民館で営まれた。松尾さんは「運命だったのかもしれないが、とてもつらかった」と言葉を絞り出す。
市営住宅で数年暮らした後、裏山の砂防工事を経て自宅を改築した。あれから30年。集落は高齢者が増え、住民は減る一方だ。
「災害はいつでも起こり得る。コミュニティー活動を維持し、普段から災害への危機意識を共有していかなければ」。8.6の教訓をつなぐ大切さを胸に刻む。
8月6日。いつもと同じように仏壇に手を合わせた。もしかすると、父が妹の手を「離した」のではなく、妹が自ら「離れた」のでないだろうか。大切な家族を守るために-。今ではそうも思える。
「いつもかつ子が見守ってくれている」。妹の分まで精いっぱい生きるつもりだ。
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