過去最大級の大型船、ヘリや潜水艦装備の探検型客船など続々 海外クルーズ船再開から半年、観光地への2次アクセスなお課題

 2023/09/21 20:46
鹿児島初寄港の探検型クルーズ船=8月、鹿児島市のマリンポートかごしま
鹿児島初寄港の探検型クルーズ船=8月、鹿児島市のマリンポートかごしま
 3月の海外クルーズ船の受け入れ再開から半年過ぎた。鹿児島県内には離島を含め9月7日までに延べ70回、クルーズ船が寄港した。過去最大級の大型客船、南極や北極にも行ける探検船など初寄港が多く、客層は中国人が多かった再開前と違って欧米客が目立つ。受け入れる関係者は新たな客層に加え、初めて訪れた船内スタッフらに気に入ってもらおうと工夫を重ねる。一方で、課題だった港から観光地への2次交通の不便は今なお改善されていない。

 3月9日の再開後、9月7日までに、鹿児島市のマリンポートかごしまには45回の寄港があった。うち初寄港は7隻で延べ19回を占める。「MSCベリッシマ」は、県内に寄港したクルーズ船で過去最大級の17万トン、乗客定員は5000人以上で海に浮かぶマンションのようだった。

 中国の団体旅行解禁前の試験運行として訪れた同国の「チャイナ・マーチャンツ・エデン」の乗客はほとんどが富裕層。ヘリコプターや潜水艦を装備した「ブルードリームスター」と北極、南極クルーズ用に設計された「ナショナルジオグラフィックレゾリューション」は探検型で富裕層向けの小型客船だった。

 関係者によると、新型コロナウイルス下で投入できなかった新船が一斉に動き出し、特に欧米のクルーズ客にはアジアの中での日本の人気が高いという。

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 訪れる客も変わった。新型コロナウイルス禍前に多かった中国人は8月まで団体旅行が解禁されず、代わりに欧米客が目立った。アメリカ・カリフォルニア州から初めて来日したトム・トランクルさん(74)は、仙巌園(同市)や知覧武家屋敷庭園(南九州市)を巡った。「鹿児島はとにかく眺めが素晴らしい。知覧までの道のりで見た山々がこれぞ鹿児島という感じだった。ぜひまた来たい」と笑顔を見せた。

 仙巌園ではコロナ前の2019年1~7月は来園した外国人客のうち、欧米客は約8%だったが23年同期は27%と大きく伸びているという。同園を運営する島津興業観光交流課の稲森慎一郎課長(43)は「コロナ前の中国団体客は免税店や無料の施設に行っていた印象。最近のクルーズ客は鹿児島の歴史や文化に触れたいと有料施設にも足を運んでくれる」と話した。

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 観光地ばかりでなく、商店街でもクルーズ再開の恩恵を狙った動きが生まれている。マリンポートから約2キロ離れた宇宿商店街にはJR宇宿駅や市電の脇田電停を利用するクルーズ客が徒歩で訪れる。

 駅の近くという利点を生かすため、英語や中国語で制作したマップやクーポン付きのチラシをマリンポートで配布しPR。コロナ前は商店街を素通りする人が多かったが、チラシの効果か、飲食店に立ち寄る様子が見られるという。

 商店街は乗船スタッフにも目を付けた。マリンポートで休憩中のスタッフにもチラシを配ると、利用してくれる人がいる。同商店街振興組合の河井達志理事長(71)は「スタッフはこの先何度も鹿児島を訪れるし、気に入れば乗客にも紹介してくれる」と期待。「大きな効果はこれからだと思う。数年かかってもいいから長い目で見て取り組みたい」と意気込んだ。

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 乗客約4300人を乗せたクルーズ船が鹿児島市のマリンポートかごしまに寄港した8月16日、現地のタクシー乗り場には200人を超える長蛇の列ができていた。ターミナル内も案内を求める客で混雑していた。

 マリンポート周辺の渋滞やバス、タクシーの運転手不足-。受け入れ再開前に不安視された2次交通の問題は今も解決されていない。

 鹿児島第一交通(同市)によると、乗客3000~5000人規模のクルーズ船が寄港すると、特にタクシーが不足する。船会社がシャトルバスを手配していない日は、ピストン運行で延べ100台以上稼働させても追いつかないこともあるという。

 永仮忍営業主任(55)は「タクシー不足は予想より厳しい。この数年でドライバーが2割減っており、新型コロナウイルス禍前と同じ感覚で誘致されるときつい」と現状を語る。その上で「乗客の鹿児島の印象が悪くならないか心配」と不安を吐露した。

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 旅行会社などは、陸上の渋滞緩和や、独自のプランを作って乗客の満足度を上げようと海上輸送に目を向ける。

 5月にはマリンポートの浮桟橋から小型高速船を利用して大隅ツアーを実施。乗客12人が鹿屋市を訪れ、カンパチの刺し身や県産食材のフルコースランチ、かのやばら園の見学など大隅半島を楽しんだ。

 6月にはクルーズ客の輸送に初めて桜島フェリーを投入、9月1日にも約650人が同フェリーで移動するツアーに参加した。福岡市の主婦田中由喜さん(50)は「マリンポートから直接乗れて楽だった。バスの渋滞も緩和されていいと思う」と話した。

 活用が始まった海上交通も使用頻度はまだ少ない。観光関係者からは、マリンポートに第2岸壁を造ったために、ジェットフォイル式の高速船が浮桟橋を使えなくなった可能性も指摘されている。海上輸送の課題は多い。

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 CIQ(税関、出入国管理、検疫)での混雑も評判が良くない。鹿児島の前後の寄港地が海外の場合は入出国の手続きが必要になり、入港から観光地へ出発するまで5時間かかったこともあった。

 「鹿児島では船を下りてから観光地に出発するまでが長い。他の県は可能な手続きは船内で済ませたり、書類の確認を1回にまとめたりと工夫している」と不満をあらわにする乗客がいた。

 受け入れ再開後、8月に初めてマリンポートを訪れた塩田康一知事は「船会社から協力をもらい、船内での情報提供やシャトルバスの手配などでマリンポートをスムーズに出られるような工夫が必要になる」と改善を図る考えを示した。

 秋以降もクルーズ船は次々に寄港し、大勢の乗客が街に出る。満足度を高めてさらに寄港を呼び込むために迅速な改善が求められる。