「バレたらやめれば…」飲食代2万円に入力額は「1900」 電子決済詐欺 2年以上ごまかし続けた常連の思い上がり〈法廷傍聴記〉

 2023/10/02 07:56
男は店主の目を盗み電子決済時に不正を繰り返した(記事と写真は関係ありません)
男は店主の目を盗み電子決済時に不正を繰り返した(記事と写真は関係ありません)
 「常連なので、信頼関係がある」-。それは客の男の一方的な思い上がりだった。

 昨年の元日夜、50代の男は行きつけの居酒屋でおせちやシャンパンを満喫していた。3時間ほど飲み食いし、会計に進んだ。「2万円になります」。男はいつものように電子決済サービスを利用。代金をスマートフォンに入力し、画面を店主に見せた。決済完了を示す電子音が鳴り響く。

 まさにこの瞬間、詐欺罪が成立していた。男のスマホに映っていたのは「1900」の数字。飲食代をごまかして決済していた。

 男が犯罪に手を染めたのは店が電子決済を導入した2、3年前。「バレたらやめればいいと思った」。店主が電子機器に不慣れなことを利用した男は、犯行を重ねた。検察側の冒頭陳述によると、公訴事実以外にも少なくとも150万円以上の支払いを免れていた。

 男は電子決済不正とは別に店にツケもしていた。店主からたびたび催促されても、なにかと理由をつけて先延ばしに。店主からの信用は完全に失われていた。

 「(払わないなら)もう表でやりましょう」。男は店主の“最後通告”を無視した。「民事裁判をするという意味だろう」。高をくくる男の元に届いたのは、刑事裁判の法廷で罪を問うための起訴状だった。

 「店のママは裕福だと聞いていた」「付き合いが長かった」。裁判の場に及んでも声色を変えず淡々と言い訳を並べた。本来便利なサービスが一部の不正のため規制される可能性もあると検察側から指摘されても、男から悪びれる様子は感じられなかった。罪の意識はあるのだろうか。

 「感覚が理解できない」。検察官もあきれた様子。「模倣性があり、影響は大きい」と懲役1年を求刑した。

 審理の最後で「早くわびを入れたい。また店主に会いたい」と関係修復を願ったが、法廷内からは冷ややかな視線が注がれた。

 後日の判決で、執行猶予が付いたものの求刑通り懲役1年が言い渡された。判決理由を聞く男はこの日も落ち着き払い冷静だった。

 自分事としての意識があるのか、最後までうかがい知ることはできなかった。

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