2021/07/30 11:00

気さくに面会、鹿児島県民の声を拾う姿勢に一定の評価〈検証 塩田県政1年㊦〉

6月、要望活動で県庁を訪れた出水市議と面会する塩田康一知事
6月、要望活動で県庁を訪れた出水市議と面会する塩田康一知事
 指宿市のJR指宿駅前。例年なら観光客でにぎわう、年明け間もない商店街の居酒屋に、男性客が一人ふらっと入ってきた。カウンターの端に座ると、10人ほどいた店内がざわついた。

 新型コロナウイルス下で苦境に立つ観光地を、お忍びで見て回った塩田康一知事(55)だった。女性店主や客が声を掛けると、気さくに応じ、話題はコロナや指宿港の海岸整備など多岐にわたった。居合わせた市観光協会職員の原幸一さん(43)は「焼酎を飲みながら、ずっと鹿児島弁だったので親近感が湧いた。今後の政策展開が楽しみ」と期待を寄せる。知事は、日置市や薩摩川内市にも一人で足を運んでいる。

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 「県民の声を県政に」-。そのために知事が意見を聴く手法はさまざまだ。これまでに9市町に出向き、住民と意見交換する「ふれあい対話」を実施。出席者15人のうち10人を公募枠にした。市町村推薦の商工会、医師会、漁協など団体トップが中心だった前知事時代とは打って変わり、訪問看護師や障害者施設職員、主婦、就職活動中の若者らの思いを受け止めた。

 知事室での応対は「時間が許す限り拒まない」とする。6月、虐待認定された4歳女児が死亡する事件があった出水市の議員有志6人が知事を訪ね、出水への児童相談所設置を要望した。県秘書課が「レア(まれな)ケース」と明かすように市議会の議決を経た要望活動でない上、市長や地元県議の同席もなかった。田上真由美議員(57)は「市議4期目で初めての経験だったが、緊急事案を直接伝えられた」と感謝する。

 2014年に自殺した県立高校1年の田中拓海さん=当時(15)=の母親(59)は、県教育委員会に真相究明を求め続けてきた。担当部署をたらい回しにされるなど紆余(うよ)曲折を経て、塩田知事との面会が1、3月に実現。6月の県議会本会議で、知事は「ご家族は長きにわたって大変つらい思いをされており、率直におわび申し上げたい」と謝罪した。傍聴した母親は「7年も訴え続けなければならなかった苦しさ、悔しさを分かってくれた」と涙を流した。

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 ただ、賛否が割れる県政の重要課題については、関係者の面会はままならない。反原発や馬毛島の基地反対などで地方議員らが県に要望する際は課長補佐級の職員が対応し、「上司に報告する」と決まり文句を繰り返す場面が目立つ。県側は「賛成、反対を問わず、同じ扱いにしている」とバランス重視を強調するが、野党県議は「いまだに回答がないケースもある。せめて、その場で答えられる幹部に対応してほしい」と不満を漏らす。

 元鹿児島県職員で、宮崎公立大学の有馬晋作学長(65)=行政学=は、広く県民の声を拾う姿勢を評価する一人。「県民が納得できる具体的で丁寧な説明が重要。賛成派、反対派それぞれの考えも分かるよう県民に伝え、理解と協力を求める姿勢が大事だ」と語る。

 今後、コロナ収束を見据えた「稼ぐ力」の具体策や賛否ある重要課題について、知事が意思表示する場面は出てくる。県民の評価を得られるのか。発信力が問われている。