2021/09/24 10:00

〈寅さん鹿児島旅 渥美清さん没25年〉生前最後の作「寅次郎紅の花」。「お母さん」と呼ばれたロケ当時。山田組と交流今も

(上)加計呂麻島の「リリーの家」=瀬戸内町諸鈍(下)「寅次郎紅の花」で、寅さんがいた土間に座る中川澄子さん=鹿児島市吉野町の両棒餅店「中川家」
(上)加計呂麻島の「リリーの家」=瀬戸内町諸鈍(下)「寅次郎紅の花」で、寅さんがいた土間に座る中川澄子さん=鹿児島市吉野町の両棒餅店「中川家」
ロケ地探訪(上)■奄美大島、鹿児島市
(南日本新聞 2021年1月3日付)

 2021年は松竹映画「男はつらいよ」の車寅次郎役で人気を集めた渥美清さんの没後25年。シリーズ中、生前最後の作品となった48作目「寅次郎紅の花」(山田洋次監督)では、鹿児島ロケが行われた。今もフィルムに刻まれた風景が残る場所があり、地元の人たちは寅さんとの縁を大事に覚えている。撮影地を巡り、寅さんの鹿児島旅をたどった。

 「紅の花」ロケで寅さんとリリーが住むとされた瀬戸内町・加計呂麻島諸鈍集落の家屋は、宿泊施設「リリーの家」として残る。同町古仁屋の房(ふさ)克臣さん(68)、裕恵さん(66)夫妻はこの奄美ロケを機に山田洋次監督らと家族ぐるみの交流を続ける。

 撮影時、経営するホテルがスタッフの宿になった。初日に裕恵さんが緑茶と黒糖でもてなしたところ、宿が別だった渥美さんも毎日食事に訪れるように。裕恵さんは「お母さん」と呼ばれた。

 ロケ帰りの渥美さんは調理場をのぞき「お母さん、卵とじうどんできますか」と声を掛けるなど気さくな様子だった。食は細いが島の家庭料理を楽しんだ。「冗談も言い、周囲に気遣いのできる人。スタッフも奄美に来たら元気になったと言ってました」と振り返る。

 奄美での最終日、一緒に写真を撮り握手した渥美さんの力は弱々しく涙ぐんだように見えた。「不思議とまた会えるとは感じられなかった」

 渥美さん亡き後20年以上、山田監督と「山田組」の面々は毎年加計呂麻を訪れてきた。克臣さんは、なぜ来るのか尋ねたことがある。山田監督の答えは「寅さんはもちろんですが、島の皆さんの心と自然が素晴らしい」だったという。裕恵さんは「縁があっても、つながり続けるのは難しい。渥美さんが今でもつないでくれているのかも」と話した。

 ロケ最終日、鹿児島市吉野町の両棒(ぢゃんぼ)餅店「中川家」で寅さんが葛飾柴又に電話をかける場面が撮られた。店主の中川澄子さん(86)によると、渥美さんは本番直前に姿を見せ、リハーサル1回、本番1回でOK。入り口近くに無言で座っている時、「写真撮っていいですか」「いいですよ」が唯一の会話だった。

 コードレス電話器が「有線」でないことを不思議がる様子が笑いを誘うが、現場のアドリブなのに感心した。

 店には寅さんファンが全国から“聖地巡礼”に訪れる。世代も幅広く「寅さんを慕ってる方がこんなに多いとは思わなかった」と笑顔を見せた。

■「男はつらいよ 寅次郎紅の花」■1995(平成7)年公開のシリーズ48作目。リリーこと浅丘ルリ子さんが4度目のマドンナ。岡山で泉(後藤久美子)と見合い相手の結婚式を台無しにした後、満男(吉岡秀隆)はたどり着いた加計呂麻島でリリーと、彼女の家に居候する寅さんに出会う。ロケは同年11月。

(南日本新聞 2021年1月3日付)