巨大風車 揺れる紫尾山系 国内最大級の風力発電計画 在京2社が競合 高さ100メートル超、最大数十基 鹿児島

 2021/10/08 08:30
薩摩川内市東郷の藤川天神から北北西の方角を望む風景。計画通りに建設されればここから風車3基が視界に入る
薩摩川内市東郷の藤川天神から北北西の方角を望む風景。計画通りに建設されればここから風車3基が視界に入る
 再生可能エネルギーを推進する国の方針を追い風に、鹿児島県の北薩地域でも風力発電施設の建設計画が相次ぐ。薩摩川内、出水、阿久根、さつまの3市1町にまたがる紫尾山系では、在京2社が競合する形で国内最大級の計画が進んでいる。

 紫尾山系で風力発電事業を計画するのは、電源開発(東京)とユーラスエナジーホールディングス(同)。当初はジャパンウインドエンジニアリング(同)も計画していたが、電源開発と協議し、2020年に撤退した。

 ユーラス社は1209ヘクタールで計画。高さ最大145メートル、回転部直径120メートルの風車を建設し、総出力は最大10万キロワットを想定する。設置予定地として挙げる25カ所の中から最終的に19基を建設する予定。23年4月着工、26年4月運転開始を目指す。

 電源開発は、東西2地区の計約1621ヘクタール。高さ約130メートル、回転部直径約100メートルの風車最大36基を設置し、最大出力計15万4800キロワットを見込む。最終的な建設数は検討中という。

 風車は大型化が進んでおり、いずれも国内で稼働実績のないサイズを使う計画だ。

 電源開発の西地区の大部分はユーラス社の計画と重なるが、発電事業の前提となる固定価格買い取り制度(FIT)の事業計画認定はユーラス社が19年3月に取得した。同じ地番で複数の事業者が取得はできず、重複区域で実際に建設するのはいずれか一方となる。

 出力1万キロワット以上の風力発電施設には環境影響評価(環境アセスメント)が義務付けられる。(1)計画段階環境配慮書(2)環境影響評価方法書(3)同準備書(4)環境影響評価書-と段階を踏んで作成する。(1)~(3)の段階で、都道府県知事は市町村長の意見を踏まえた意見書を出す。知事や住民の意見に基づき、経済産業大臣が環境保全の観点から考慮すべき点などを勧告する。(4)まで終え、保安林解除手続きなど諸条件を整えて、工事計画が認可されれば事業に着手できる。

 電源開発は昨年11月、(3)の準備書を提出。これに対する知事意見書は、建設残土の具体的な処分方法や場所を評価書に記載することなどを求めた。同社は残土を区域外に搬出するとしているが、現時点で詳細な計画は示していない。経産大臣勧告ではクマタカへの影響を回避・低減するため、一部風車の設置取りやめか配置変更などを求めている。

 ユーラス社も今年6月に準備書を提出。残土は搬出せず区域内で処分するとし、土捨て場候補地などを含めた計画を示した。これに対し、県が知事意見書に反映させるため、関係市町長に意見を求めている。

■「強い風」魅力、国の主力電源方針が後押し

 風力発電計画が相次ぐ背景には、政府がエネルギー基本計画の主な施策に、再生可能エネルギーの主力電源化を目指すと明記したことがある。北薩地区では紫尾山系を含め3地域で、事業者の建設予定地が重複している。

 経済産業省のホームページによると、薩摩半島北部エリア(県境や洋上を含む)では、環境影響評価(環境アセスメント)中の風力発電建設計画は9月末現在で13件に上る。紫尾山系、いちき串木野と薩摩川内の市境、北薩沖の洋上はそれぞれ2事業者(事業体)の計画区域が重なっている。年間の平均風速が6メートル超と、九州内では比較的風が強いためだ。

■騒音、災害、景観・動植物への影響…住民、募る不安

 紫尾山系の大型風力発電計画には、周辺の住民から景観や騒音、土砂災害、動植物への影響などさまざまな不安の声が上がる。

 薩摩川内市の藤川地区コミュニティ協議会は、藤川天神の景観への影響、騒音による健康被害などへの懸念を訴え、一部の風車の建設中止を求める陳情書を市議会9月定例会に提出した。

 委員会審議では住民生活への影響や災害への強い懸念を示す声があったものの、景観への影響は限定的とし、事業者によるインフラ整備に対する期待の声も挙がり、結果的に不採択となった。

 風車が三方を囲むような計画となっている本俣集落の自治会長久保力さん(66)は「鳥の鳴き声で目覚める静かな集落。国内では例がないほど大きな風車が建てば、どんな健康被害を及ぼすか分からない」と不安を口にする。

 紫尾山系の表面は、花こう岩が風化したまさ土で広範囲に渡って覆われている。阿久根市田代地区の元消防団員本七男さん(59)は土砂災害の危険性が高まると危惧する。「山間部では大雨による崖崩れが頻繁に起きている。開発で山の貯水機能が失われ、被害が増す可能性もある」

 市民団体「紫尾山系の巨大風力発電計画を考える会」は、計画見直しや十分な説明を求める要望書や陳情を出すなど、関係自治体に働き掛けている。手塚理一郎代表(72)=さつま町船木=は、希少なクマタカや、出水のツルへの影響を懸念。「再エネ推進は欠かせないが、後世のため自然を守ることも重要」と語る。家畜への影響を心配する声もある。

 両社とも住民説明会を開き、地元理解を得るよう努めてきた。しかし、新型コロナウイルス感染拡大で説明会が開けないケースが増えているという。

 ユーラスエナジー国内事業第3部の清水俊哉課長代理は「懸念の声は真摯(しんし)に受け止める。要望があれば積極的に説明していくというスタンスは変わらない」としている。
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