重い障害があっても希望は捨てない チョークアート 社会復帰の願い込め描く

 2021/10/22 21:05
山下直哉さんが制作した「曼荼羅(まんだら)」(筌元ひとみさん提供)
山下直哉さんが制作した「曼荼羅(まんだら)」(筌元ひとみさん提供)
 黒いボードにパステル画材で描いた鮮やかなチョークアート。16年前、自己免疫性脳炎による全身けいれんで倒れ、重い障害を負った鹿児島市の山下直哉さん(39)の作品が熊本県で開催中の展示会に出展されている。障害と闘いながら独学で学んだ作品には、社会復帰への希望や熱い思いが込められている。

 鹿児島工業高等専門学校を卒業後、九州大学工学部に編入した山下さん。2005年に同大大学院総合理工学府に進学した。核融合を学んでいた同年11月、研究室で全身けいれんに突然襲われ九大病院に救急搬送された。

 搬送後は麻酔投与のため意識のない状態が続いた。自発呼吸もできず喉から気道まで切開して人工呼吸器を1年近く装着。麻酔の投与量減少とともに意識が戻り意思疎通できるようになった。2回の転院を経て記憶が戻ったころには入院から1年半近くたっていた。

 診断までに6年以上を要した病名は自己免疫性脳炎の一つ「抗NMDA受容体脳炎」。体内に侵入した異物から体を守るはずの免疫が自らを攻撃する。車いす生活となりてんかん発作を抑える薬が欠かせない。現在は自宅で訪問診療などを受けながら母と暮らす。

 チョークアートは5年ほど前、テレビ番組で知った。ボードに下書きし、チョークの形をしたパステル画材で色をつける。練習を重ねこれまでに23作品を制作。一作品に長くて2カ月ほどかける。手首が思うように動かせないときもあるが「子どものころ、絵に色をつけるのは得意でなかったが今は面白い」と魅力を語る。

 作品の多くは家族や友人に贈ったが、手元に残る4作品を、南阿蘇ビジターセンター(熊本県高森町)で24日まで開催中の展示会に出展した。熊本在住のチョークアート作家・筌元(うけもと)ひとみさん(57)が声を掛けた。フェイスブックで作品を見掛け「想像力豊かで深い」と感銘を受けた。山下さんとやりとりを続け塗り方などを助言するようになったという。

 山下さんは「できれば多くの人に作品に触れてほしい。難しい病気になってもここまで描けると知ってもらえたら」と願いを込める。「高専時代の友人がよく家を訪ねてくれる。社会で立派に活躍する彼らに少しでも追いつきたい」と話した。