国は科学技術立国を目指すという。けれど語られるのはコロナ対策や経済ばかり。そして研究費は削られる。研究者として納得いかない【U30のまなざし 衆院選鹿児島】

 2021/10/24 09:06
日夜研究に励む博士研究員の浦郷陸さん=14日、鹿児島市の鹿児島大学
日夜研究に励む博士研究員の浦郷陸さん=14日、鹿児島市の鹿児島大学
 深夜の鹿児島大学。ぽつんと明かりのついた研究室で、浦郷陸さん(29)は論文を書いていた。大学院理工学研究科の博士研究員。いわゆるポストドクター(ポスドク)だ。

 テーマは「星の終末進化」。長年国内外の研究者が取り組んでいるものの完全な解明に至っていない。浦郷さんも5年以上かけ研究している。「基礎研究の成果は分かりにくい。とはいえ研究費が削られるのは納得いかない」。日々そう思う。

 天文学を専攻し2020年3月に理学博士号を取得。その後、南アフリカで観測を担うポスドクとして雇用され2年目となった。ところが、新型コロナウイルスの影響でいまだに渡航できない状況が続く。任期が切れる再来年以降のポストは決まっていない。

 「若手研究者の多くが不安定な状況。パーマネント(無期限雇用)の役職募集は年に一つあるかないか。ポストが少なければ、すぐに結果が出る研究に偏ってしまう。やりたい研究のため、研究費を出してくれる海外へ行くのは仕方ない」。自身も国内にこだわらない姿勢を見せる。

 こうした流れを助長させているのが、競争的資金に研究費を頼らざるを得ない現状だ。04年に国立大学が独立行政法人となってから大学の運営費交付金は減額が続く。その一方で、複数の学者が獲得を競う科学研究費補助金(科研費)は増加傾向にある。

 研究の「選択と集中」が進み、研究費を得られない大学は役職を削減。競争力低下の悪循環に陥る。技術力を誇ってきた日本だが、近年はその地位も危うい。第5世代(5G)移動通信システムや人工知能(AI)の分野で既に遅れをとっている。

 岸田文雄首相は成長戦略の第一の柱に、科学技術立国の実現を掲げた。与野党ともに衆院選の公約で、研究開発予算の増額や若手研究者の処遇改善などを競う。だが、主な争点はコロナ対策や経済再生が中心。議論が深まる様子は見られない。

 「政治家たちに10、20年後の長期的なビジョンはあるのか。選挙も研究も目先の成果にとらわれている」。コロナ禍では仕方ないと理解できる半面、割り切れなさが残る。

 学生の大学院進学を支える親の経済状況も心配だ。博士号取得者は06年以降減少し続ける。才能ある学生が進学を選べない。

 浦郷さんは「基礎研究で世界に遅れをとり続ければ、日本の立ち位置はさらに危うくなる。資源の乏しい日本は科学技術で勝負するしかない。基礎研究が最重要だ。国は大きな利益になると信じ、研究に投資してほしい」。若手研究者の危機感は強い。

取材後記・政治は長期的視点を

 論文発表の記事への反応はさまざまだ。「科学の前進」と称賛されるメジャーな研究もあれば、「何の意味があるのか」と問われるものもある。生活に役立つ研究への関心が高いのは分かるが、基礎科学の重要性を伝えるメディアでありたい。浦郷さんは「技術の根源には基礎科学の発展がある」と話す。ただ時間がかかる。政治には長期的視点を求めたい。(速見由紀子、26歳)
広告